普段、何気なく歩いている道
少しだけくぼんでいたり、少しだけ盛り上がっていたり
いつものように、そっとよけ、通りすぎる
「そんなことより最近、家の近くにオシャレなカフェができたんだ
居心地のいい場所だ」
現代は、形あるたしかなものを求める
互いの共通認識あるものから、相手を説得する数字や実績、名声までも
たしかな、実感あるものだ
僕もまた、その一人だった
形ある会社を立ち上げよう。そうすれば、望むいくつかの形は手にはいる
野心を抱いた
走れば走るほど、俺はやれると、たしかな自信も得ていた。
現代は、形を纏わなければ、声を失う
形がものをいう世界だ
しかし、そんな掴まされたものは、いつしか身体を蝕み
まとわりつく形に耐えきれず、すべてを手放した。
仕事を辞め、夜が深くなってから外へ出る生活、20日間ほど続いた
真っ暗な底で出会ったのが、彼ら、夜中の作業員でした。
道路や広場の修復作業をしていた。
僕の気配に気づくなり、「どうぞ」と、時折「こんばんは」と声を掛けてくれた。
少しだけ居心地がいい
だって、暗闇の底に、沈んだもの同士、誰の目も気にならない
世の中で一握りの成功を勝ち取る者は、
明確で大きな形を持ち、いつも日の光に当たっている者だ
彼らがボソッと呟けば、たちまち辺りはざわつく
暗闇の底にいる僕らが必死に叫んでも、届かない
形を追い求めていた頃に感じていた、【たしかな実感】とは異なる、
凄まじい無力感だった。
形を追い求める世の中が強固になっていく今
形を持たない者たちの無力感は、さらに大きくなる
そんな世界、誰もが胸を張って生きていたいと言えるのだろうか
誰もがありのままの自分を、愛せるのだろうか
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