この度は、全国土木弁論大会「有馬杯」の開催、誠におめでとうございます。
記念すべき第一回の、トップバッターを務めさせていただきます東日本旅客鉄道株式会社の伊東佑香と申します。
土木と弁論。
最初に鈴木グループ長からこの大会へ参加のお誘いをいただきました。お声かけいただいたことが大変嬉しく、すぐに二つ返事で引き受けさせていただきました。が、その後の私の中に浮かんだのは、「どうして今、土木と弁論なの?」という疑問でした。
弁論とは何なのでありましょう。
私が有馬さんご出演の動画から読み取った弁論の定義は、「個人の唯一無二で具体的な経験」を語り、「個人の熱意で聴衆の心を動かすこと」でした。
それならテーマはもちろん我々の目の前にある土木の実務でありましょう。生まれも育ちも現在所属する組織も違う人間が集い、議論を重ね、100年、いや1000年を超えるプロジェクトを造り上げる。私が携わったプロジェクトだけでも、あれもこれも喋りたいことは沢山あります。この弁論大会を契機に500万人を超える建設従事者がそれを語ることが出来たら、それ以上の土木広報はないでしょう。
さて、テーマは決まりました。そこで改めて有馬さんの動画の中にある弁論原稿作法を拝見すると、弁論の五大要素のうち、修辞技法というテクニックを除く要素としては、「具体例、経験談、客観的事実」、「メッセージ」が挙げられています。
あら。薄々気付いていたのですが、困ったことになりました。実務に携わっておられる皆様ならば、そのご経験から認識されていると思いますが、一つ目の「具体例、経験談」は、土木ではその公共性の高さから、公表範囲が限られる、二つ目の「メッセージ」は、土木では個人の意見ではなく、組織の意見をまとめるため、これでは弁論の五大要素の3つをお話できないことになってしまいます。
土木の仕事はその影響範囲の大きさから、組織のチェックを通していない情報を公開することは難しいでしょう。また、土木はひとりで出来る仕事ではありませんから、個人の意見を組織内で、そして組織間でまとめていく必要があります。
では土木で、「個人の経験」を語り、「聴衆の心を動かすこと」ことは出来ないのでしょうか。
そういった要素が求められる場は、全くないのでしょうか。
いや、そんなことはありません。ひとつ思いつきました。7月の三連休の土木の恒例行事のアレです。
7月の三連休でご想像のついた方もいらっしゃるかと思います。そう、技術士二次試験です。
私は職場で論文添削を行っています。技術士試験ではまさに「個人の具体的な経験」を語り、「試験官を納得させること」が求められています。
若手を中心に論文添削を行いますが、これが面白いのです。君はこんなに面白い仕事をしていたのか、私の目は節穴であったな…と毎年痛感しています。
また若手ほど「これは私だけがやった仕事じゃないので…」と謙遜して、自分の発揮したリーダーシップを書き渋る場合があります。実際そんなことはありません。そんな場合には、それではコンピテンシー、技術者の資質能力を満たさないから合格しないぞ、なんて話しています。
技術士試験には、合格という目標があるにせよ、試験官との守秘義務に守られた場所で語っているにせよ、こんなに豊かに、自分の言葉で、相手に伝えようという熱意を持って、土木は語られています。我々土木技術者にはそれが出来るのです。
本当に土木で語ってはいけないものは何なのか。予定価格は流石に語れないかもしれません。でも組織を超えて、身近な、そして遥かな未来を描こうとしいていることをもっと話していきたいですね。
最初、土木と弁論を考えたとき浮かんだ言葉は「土木技術者は弁論大会で優勝できない」でした。今はまだそうかもしれない。でも未来に向けて「土木技術者が弁論大会で優勝できる」そんな土木を、土木に携わる我々は、これから作っていきませんか。
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