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「焼肉のタレで気づいた、土木の見えない力」

投稿者:土木広報センター 投稿日時:木, 2026-08-20 12:00

全国土木弁論大会2026 優秀賞

「焼肉のタレで気づいた、土木の見えない力」 山本 美穂

皆さんは、“焼肉のタレ”が 人生を変えることがあると思いますか。
私は、あります。

今から30 年以上前 親の反対を押し切り、ゼネコンに入社した私。「土木屋として現場で活躍するぞ!」という私の期待とは裏腹に、工事現場で私に回ってくる仕事は雑用ばかりでした。
ある日、現場の作業員慰労会でのバーベキューで ある作業員さんにこう言われました。
「焼肉のタレがなくなったぞー 誰か買ってこーい!」
「はい!行ってきます」 勢いよく走りだしたものの、心の中では “私、何やってるんだろう?このままずっと雑用ばかりで一生おわるのかな”。と泣きそうになっていました。 だけどタレを買って戻ると、皆が笑顔で
「待ってたよ。ほら、肉焼けてるよ!」
単純な私は おいしいお肉をたべて、すっかり元気になりました。

後日、先輩と話をしたときに、私は先輩にこう伝えました 「私が女だから、重要な仕事を任せてもらえないのだと、すこし落ち込んでいました。でもみんなが喜んでくれるなら、頑張ろうと思います」
先輩からは意外な答えが返ってきました。
「君は肉になる必要はないよ。たれでいいじゃない。いくらいい肉でも、タレがまずいと焼肉は美味しくない。
タレがうまいと、普通の肉でも、焼肉はちゃんとうまくなる。
君が焼肉のたれを買ってきたら、みんな喜んでいたじゃないか。
それは みんながタレの大切さを知っていたからだよ。」

その瞬間、私の中のものさしがひっくり返りました。

“そうか!肉じゃなくてもいいんだ、たれでいいんだ!
男性の先輩と同じ仕事をする必要はない。同じクオリティで 現場に貢献すればいいのだと。

それからの私は、自分の「土木」という仕事を見つめなおしました。
テレビに映るのは派手な工事の場面。けれどその工事に至るまで、計画、調査、設計など **“見えない仕事”**が数多くあります。
それらの見えない仕事があって、初めて現場は一歩、動く。

そんな“見えない力”の価値を骨身で知った出来事があります。
10 年近く前。私は、集中豪雨で斜面が崩れ、線路が寸断された災害復旧に携わりました。
夜明け前、ヘッドライトに照らされた斜面は、湿り、重く、静かに崩れ続けている。
そんな中で、鉄道会社、自治体、専門家、警察・消防……関係者のみなさんと、私たちは夜を徹して復旧方法について話し合いました。重機が動く時間と同じくらい、図面と地図の前での議論や調整に時間をかけました。
そして災害から数日後、電車が動きました。
電車が到着した瞬間の、ホームにいた人のうれしそうな顔を 私は一生わすれません
**「ああ、タレの仕事って、こういうことなのだな」**と。

この災害では 現場が広範で危険だったため、NHK の報道ヘリが上空から撮影に来ました。その映像の片隅に、泥だらけで斜面に立つ私が映り込んでいたようで、ニュースを見た母親から電話がかかってきました。
「美穂……あなた、こんな仕事をしていたの? よく頑張ったね。」
現場勤務に反対していた母親からの 思いがけないエールに 、私の胸は熱くなりました。

家族にすら見えなかった“タレの仕事”が、あの日、ほんの一瞬だけ“見える形”になりました。
見えない力は、誰かの当たり前を支えている。 その事実を、私が確かに感じた瞬間でした。

ところでみなさん、今日ここへ来るまでに、みなさんは普通に電車を使って来ていただいたと思います。
当たり前に電車が動くその後ろには、見えない日々の構造物の維持管理があるのです。

私は今、ゼネコンで土木所長として現場を預かっています。
現場は「だれの仕事が目立ったか」ではなく、「だれの仕事が支えになったか」だと、日々学んでいます。

だから私は、若い仲間に伝えたい。
無理に肉になる必要はない。
あなたが持っている“味”で、現場を美味しくすればいい。

インフラの老朽化が進む今こそ、見えない力を尊ぶ文化が必要です。
焼肉のタレが、私にその意味を教えてくれました。

私はこれからも、誰かの“当たり前”を支える見えない仕事に、まっすぐ向き合っていきます。
けれど、公共インフラを支える土木という仕事への誇りは、私の心の中で、いつもはっきりと見えています。

「焼肉のたれで気づいた 土木の見えない力」

分類: 
全国土木弁論大会

(c)Japan Society of Civil Engineers