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「披星戴月」

投稿者:土木広報センター 投稿日時:木, 2026-08-20 12:00

全国土木弁論大会2026 オーディエンス賞

「披星戴月」 小佐川 凜

突然ですが、みなさんは最近、しっかりと休めていますか? 暑い日が続きますので、うまく寝付けていない人もいるのではないでしょうか。

かくいう自分も寝不足でして、実は今日も、夜勤明けでこの弁論会場に駆けつけました。少し眠そうな目をしているかもしれませんが、心はどの弁士よりも熱く燃えています。なぜなら私は、大学1年の夏から3年間、インフラを足元から支える「警備員」として現場に立ち続けてきたからです。
今回の演題である『被星戴月』。 「星をかぶり、月をいただく」と書くこの四字熟語は、夜明け前から夜遅くまで精一杯仕事をする、という意味を持ちます。
私は、日勤を終えて夕焼け空にうっすらと滲む月を見上げる瞬間が好きです。そして、夜勤を終えて、まだ残る星々と一緒に退勤するあの静けさも好きです。だからこそ今日、この演題を掲げました。

しかし、その美しい言葉の裏側で、私たちが立つ現場には、見過ごせない歪みが存在しています。今日は、住民のみなさまと土木の現場を繋ぐ存在である、警備員が抱える現実について、みなさんと一緒に考えていきたいです。

現在、交通誘導警備の現場は極めて深刻な危機に瀕しています。担い手不足と高齢化が進み、実際に現場を見渡せば、60代、70代のシニア層が多く働いています。 そして、過酷な労働環境。厚生労働省の統計でも、職場における熱中症死傷者数は、建設業と警備業が常にワースト上位を占めています。炎天下のアスファルトの上で数時間立ち続ける交通誘導は、まさに命がけです。
しかし、私が本当に問題視したいのは、気象条件の過酷さではありません。現場における「こころの孤立」という、人為的な歪みなのです。

私たちは現場でしばしば、「下請けの下請け」、あるいは「ただの配置人員」として扱われます。 ここで、私の忘れられない経験をお話しさせてください。
ある真夏の昼下がり、私は70歳の同僚と2人で現場に入っていました。そして午後2時過ぎ、あまりの酷暑に同僚は熱中症で倒れ、救急搬送されました。 幸い一命を取り留め、彼は1か月後に復職しました。その際、私は彼に「なぜ、もっと早く休憩させてくれと言わなかったのか」と尋ねました。彼は静かにこう言いました。 「周りの作業員さんはみんな忙しそうに動いているし、元請けからは『おい、警備員』としか呼ばれない。そんな関係の中で、自分から『休憩させてください』とは、言い出しにくかった。」

この言葉に、現場の歪みが凝縮されています。 国のガイドラインには、熱中症の「搬送者数」は記録されても、彼らが「なぜ、もっと早く休めなかったのか」という心理的な理由は記録されません。しかし現実には、数字には表れない、空気が存在する。
これこそが、いくら対策を整備しても現場から熱中症が消えない、統計に載らない真の原因のうち1つなのです。

では、なぜ、このような分断が生まれてしまうのでしょうか。 それは、私たちが「何のためにそこにいるのか」という本質が共有されていないからです。 警備員は、単に車を誘導する機械ではありません。工事への手厳しいクレームを最初に受け止めるのも、道を尋ねる子供たちに笑顔でルートを案内するのも私たちです。
一般市民にとって、現場で最初に目が合う警備員こそが「土木業界の顔」であると私はつよく訴えます。
私たちが守っているのは、作業員のみなさんの命であり、同時に、土木という産業に対する社会からの「信頼」そのものです。しかし、その重要性が十分に認識されていないからこそ、リスペクトの欠如や、休憩すら言い出せないすれ違いが生まれてしまうのです。

私が理想とするのは、現場に関わるすべての人が、お互いの専門性を認め合い、目を配り合える社会です。

だからこそ、土木の現場で働かれている皆様にお願いがあります。
どうか、現場に立つ警備員をただの景色としてではなく、安全を共につくる「パートナー」として気遣っていただきたいのです。「しっかり水分取れているか?」「次、いつ休憩入る?」そのたった一言の配慮が、どれほど私たちの張り詰めた心を救い、現場の安全を高めるかを知ってほしいのです。

そして、土木業界以外のみなさまにもお願いがあります。工事現場の横を通り過ぎるとき、ほんの少しだけで構いません。誘導灯を振る警備員に視線を向け、小さく会釈をしてみてはくれないでしょうか。

私が3年間、警備員として働いていて一番嬉しい瞬間。それは、人から貰う「ありがとう」の言葉です。 それは作業員さんからのぶっきらぼうな感謝かもしれないし、登下校中の子供たちからの元気な声かもしれない。あるいは、この会場にいるあなたからの言葉かもしれません。
その一言で、台風の中でびしょ濡れになった苦労も、炎天下に立ち続けた辛さも、すべてが報われます。そのたった一言で、私たちはもっと強い誇りを持って立つことができるのです。 今日の帰り道、もし街で警備員さんを見かけたら、一言、「お疲れ様です」と声をかけてみませんか。

普段は表立って話す機会のない、いち警備員に、このような提言の場をいただき、本当にありがとうございました。
私はこれからも、土木に最も近い場所で、みなさんの安全を見守り続けます。

では最後に、みなさま。明日も、明後日も、その先も。 どうぞ、ご安全に!

分類: 
全国土木弁論大会

(c)Japan Society of Civil Engineers