人工衛星を用いた地球観測データ(衛星データ)は、これまで20年余りにわたり多くの分野で利用され、その有効性が実証されてきた。そして最近では急速に衛星データの多様化と高精度化が進み、近い将来には地上解像度が1mから3mといった高精度の衛星データの取得が可能となる。そうした中で、衛星データの利用は新しい時代を迎えつつある。
衛星データは、言うまでもなく即時性、広域性、繰り返し性(定期性、継続性)といった特長を持ったものであり、従来の情報収集手段にはない利点が多くの研究事例をとおして実証されている。しかしながら建設分野に限ってみると、衛星データの導入に関して有効性は議論されてきたものの具体的な利用事例は必ずしも多くはなく、またこれまでの研究事例についても土地被覆分類や環境監視等に偏った印象を与えている。
このような状況の中、衛星データの実用的な利用方法について検討し、将来の技術に対するニーズを取りまとめることを目的とし、平成7年度に「人工衛星を用いた地球観測データの実利用研究会」(大林成行会長)が設置された。同研究会は、(社)日本リモートセンシング学会の土木リモートセンシング研究会協力を受けつつ、平成7年10月から半年間の研究活動を行い、1996年3月にその中間成果を「建設分野を対象にした衛星データの実利用可能性に関する検討」として取りまとめた。
平成8年度に入り、同研究会は土木情報システム委員会の臨時小委員会(「衛星データの実利用特別小委員会」)として活動が認められ、平成9年度末までの2年間をめどにこれまでの1年間、研究を継続してきた。本報告は、当小委員会が平成8年度に行った研究の概要をとりまとめたものである。
本小委員会は、前年度に行ってきた研究会からの活動を含めて3年間の活動期間を設定しており、その研究期間の中で、最終的には建設分野に限定した衛星データの利用分野毎のマニュアル作成までを活動の目標としている。
本小委員会では、衛星データの利用対象分野毎にワーキンググループを組織して、活動を行ってきている。各ワーキンググループではまず、検討対象分野における衛星データの利用対象項目別に、情報の収集・活用(データ利用)の面から、従来の調査、計画、設計、施工管理といった業務において利用されている建設情報について、衛星データに置き換えた場合のメリット、デメリットを整理することから研究を開始した。そうした整理の中で、衛星データの利用に関して、ユーザの立場から衛星データに関する現状の考察と要望事項を整理することができた。
今年度に入り、近い将来入手が可能となるであろう高解像度衛星データのシミュレーションデータ(航空写真をもとに作成した模擬データ)を利用する機会を得た。そこで、このシミュレーションデータを用いて利用対象分野毎に実際の画像処理/解析を行うことにより、各分野の専門の立場から実務における衛星データの利用可能性について考察を行った。また、あわせて昨年度までの研究で整理した利用可能分野についても検討を重ね、次年度に向けた研究成果のとりまとめ方針について議論を重ねた。図-1に本研究の全体フローを示す。
本小委員会は、図-2に示す組織体制となっており、表-1に示すように6つの部門に属する47名(平成9年3月末現在)の委員から構成されている。研究活動は、主に各部門毎に開かれるワーキンググループの会合と、それに伴う作業によって進められてきており、部門間の連携については各部門の主査(6名)によって構成される主査幹事会において討議されてきている。今年度の小委員会、主査幹事会、ワーキンググループの活動経緯は、表-2に示すとおりである。これらの会合以外にも、各ワーキンググループでは電子メール等を活用した情報交換、討議、共同作業を随時行ってきており、その成果は主査幹事会等において逐次互いに報告されている。