令和7年度土木学会出版文化賞は以下の2作品に決定いたしました。
本書は、日本初の大規模国家プロジェクトである安積疏水事業を、現場責任者・南一郎平の視点で描いた歴史小説である。南が多様な利害関係者と向き合い、困難な調整を重ねながら事業を前に進めていく姿を通して、安積疏水事業という国家的偉業が立体的に描かれている。
物語は土木専門外の読者にも読みやすく、事業前後で郡山がどう変貌したかを示す描写は、土木が人々の暮らしを豊かにする力を理解させてくれる。また、内務卿大久保利通ら明治の指導者たちが繰り広げる政治的駆け引きが挿入されることで、この事業が一地域の振興にとどまらず、新政府の確立に不可欠な士族対策という国家的な意義も有したことも伝わる。
さらに本書には、意思決定、測量、設計、地元調整、資金繰り、事故対応など、現代のプロジェクトマネジメントにも通じる要素が凝縮されている。土木技術者であれば、思わず「ある、ある」と頷き、自身の経験と重ね合わせながら読み進めることができるだろう。昔からの測量方法や橋梁技術に加え、蒸気タービンやダイナマイトなど当時の最新技術も紹介され、技術史的な学びも深い。
以上のように本書は、土木事業の意義と価値を一般に伝えると同時に、土木技術者やそれを志す者の専門的教養の向上にも寄与する作品であり、ここに土木学会出版文化賞を授与する。

植松 三十里
本書は、橋梁を技術、景観、文化の観点から総合的に捉え、構造力学、施工、設計思想、デザイン哲学に至るまで多面的に論じた書籍である。複数の実務者、研究者によるオムニバス形式でありながら、「コンセプチュアルデザイン」を共通テーマとして全体が統一されている点に特色がある。
本書の長所として、第一に、豊富な写真、図版を用いて橋梁の構造的特徴やデザインの考え方を明快に示しており、専門技術者のみならず一般の読者にも理解しやすい構成となっている。第二に、国内外の事例を通じて橋梁設計における思想形成の過程や美的、文化的価値を明確に示し、橋の理解を多面的に深める構成となっている。第三に、設計者の経験と理念に基づく記述が、橋梁デザインに必要な思考過程を具体的に示しており、若手技術者の専門的教養を高める上で有用である。さらに、橋梁を社会的、文化的存在として位置付けている本書は、土木分野への関心を喚起し、専門技術者と一般の読者が橋の価値を共有する機会を与える点でも評価できる。
以上より、本書は橋梁デザインの本質と多様な価値を的確に示し、土木分野の専門性向上および社会的理解の深化に寄与するものであり、高く評価できる。よって、ここに土木学会出版文化賞を授与する。

藤野 陽三

畑山 義人

佐藤 靖彦
久保田 善明

松井 幹雄

八馬 智

春日 昭夫

安江 哲