土木学会 2024年度全国大会研究討論会(11)
『気候変動対策と市民参加の展望』
日時:9/3(火)10:00~12:00
場所:Zoomウェビナー(リンク掲載予定→ https://committees.jsce.or.jp/
主催:環境システム委員会(詳細情報→ https://committees.jsce.or.jp/
気候変動対策として,行動変容を伴う脱炭素化が必要とされる。トップダウン的にナッジ等の手法を用いて行動変容をうながすだけでなく、ボトムアップ的に市民参加を通じて脱炭素に適した望ましい行動変容とそれを支援する地域づくりを明らかにし、転換することも効果的と考えられる。本討論会では,気候変動対策と市民参加に関わる実践や研究に関わる研究者らに登壇いただき,今後の展望について議論する。
■プログラム:
○趣旨説明 松橋啓介(国立環境研究所)、馬場健司(東京都市大学)
○話題提供(各15分程度):
1.脱炭素型のまちづくりと市民・企業の行動変容 雨宮萌々子(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
気候変動対策には、技術革新を待たず早期に実施でき、かつ再エネ利用拡大やEV転換など既存技術を浸透させる促進剤にもなりうる市民・企業ら需要側の“行動変容”が重要である。
中でも、“市民”による行動変容施策は、既に様々な地域で展開され始めており、ゲーム性を取り入れた“楽しさ”で環境に配慮した行動を促す例や、行動に対し地域通過・クーポンなど換金性ある報酬を付与する例などが多く見られる。また、“企業”の行動変容も、環境に配慮した企業行動を投融資時の評価に加えるなどの施策設計が進んでおり、今後加速することが期待される。
こうした施策の積み重ねで促す市民・企業の価値観の変化は、やがて選択される建物や機器、エネルギーを変え、脱炭素型の“まち”へ変化する契機となりうる。
実現に向けては、最適な行動変容施策を設計・助言する大学や、地域政策として実施し定着化を図る自治体、気候変動対策に資する建物や機器を提供する民間企業との協働が必要である。
2.気候市民会議つくばの経験から 松橋啓介(国立環境研究所)
2023年9~12月の日曜午後4時間6回に渡り気候市民会議つくばを開催し、2050年にゼロカーボンで住みよいつくば市を実現するための市民の取組と行政の施策を74の提言にまとめた。先行事例を参考に、提言を政策に反映させる約束をし、比較的高い謝礼を払うことで、5,000人中569人の参加希望者を得た。市の縮図となる50人を抽出するため気候変動問題への関心についてもバランスを取った一方、より多様な意見を把握するために意見アイデアの公募を行った。また、専門家からの情報提供の時間は短くし、グループワークを長くした。市は提言のロードマップ化を進めているが、ゼロカーボンの実現にはさらなる対策が必要である。
3.行動変容に向けた市民参加の仕組みづくり 山口健太郎(神奈川県)
脱炭素社会の実現に向けて、市民参加型のアプローチである気候市民会議の活動は非常に重要となる。しかしながら、先行的に取り組む地域がある一方で、まだまだ動き出せていない地域も多いのが現状である。こうした状況を踏まえ、広域自治体として神奈川県では、昨年度から市町村・専門機関・団体等と連携し、県内3地域(逗子市・葉山町、厚木市、横浜市青葉区)での気候市民会議の準備・立ち上げ・運営を後押しし、最終的にそれぞれ行政への提言提出に至った。本県では、今後、こうした市民参加型の取組をどう「横展開」し、かつ「持続化」につなげていくかが課題と考えており、解決に向けた多くの主体との議論・検討、そして実践が必要となる。
4.脱炭素トランジションにおける気候市民会議の位置づけ 松浦正浩(明治大学)
化石燃料を前提とした社会経済システムからの脱却にはトランジションの思考が必須である。トランジションの加速を狙うトランジションマネジメント(以下TM)は、未来を先取りするフロントランナーに追随して行動を変容するフォロワー数の増加によるアーリーアダプターからアーリーマジョリティへの普及をねらう。気候市民会議は本来、熟議民主主義の実践としてのミニパブリックスであるが、脱炭素を目指すTMのなかにそれを位置づける可能性を、本発表では検討する。たとえば、気候市民会議を通じ、一般市民の感覚で実行しやすい行動変容の特定や参加者自身の行動変容の喚起ができるのではないか。たとえば、2023年度に行われた「みその気候市民会議」では、ウォーキング系ポイ活アプリや排出削減と夏祭りの花火の発数のリンクなど、ゲーミフィケーションの利用が提言された。
5.脱炭素社会・気候変動適応社会への移行に向けた人々の態度行動変容の可能性 馬場健司(東京都市大学・総合地球環境学研究所)
脱炭素社会・気候変動適応社会の移行に向けて,人々が態度行動変容に至るためには,科学的知見を得るだけではなく,気候変動影響の実感を伴う事象について人々が自ら地域知・伝統知として発見,創出することが肝要と考えられる.地域知・伝統知の収集には,シチズンサイエンス(市民参加型モニタリング)が有力な手法として挙げられ,身近な生物や植物の生息分布の観察,季節を感じる生活上の気づきの報告等が世界各地で実践されている.本発表では,オンライン上のシチズンサイエンスプラットフォームにて,各地の市民らが収集した伝統知・地域知を共有し,専門家や政策担当者らとオフライン・オンラインで熟議を行いながら,人々の態度行動変容を促進しようとする試みについて紹介する.
○討論・質疑応答 コーディネータ:荒巻俊也(東洋大学)