2021年8月15日
公益社団法人 土木学会
公益社団法人土木学会は、2021年5月14日に「COVID-19 災禍を踏まえた社会とインフラの転換に関する第2次声明」を発出し、ウィズコロナのフェーズが長期化することを想定し、「感染症リスクの視点に立った強靭な社会づくりへの転換」、「感染症と自然災害との複合災害に備えた強靱な社会への転換」、「安心して暮らし、移動し、過ごすことができる環境づくり」などの視点から提言を行っている。
声明の発出から現時点まで、ワクチン接種が必ずしも迅速に進んでいないこと、感染力の強い変異株への置き換えによるコロナ禍の急速な拡大で広域的に医療崩壊の危機にあること、さらには、コロナ感染拡大防止のため全国的な人流抑制が呼びかけられてはいるものの、昨年のような実質的抑制効果が表れていないことなどの情勢にある。
一方、現在、数十年に一度といわれる停滞前線による豪雨域が九州から東日本にまで極めて広域に及んでおり、各地で被害が生じている。
このような現状を「新型コロナの急速な感染拡大下での広域的・記録的な豪雨における複合災害」と認識し、今後も警戒を弱めることなく、必要に応じてより良い対策を講じるなど迅速かつ効果的な対応を図っていくことが必要である。
土木学会としては、今期の情勢を最大限に注視するとともに、インフラ・国土・交通・暮らし等の観点から複合災害に関連する技術と政策を検証し、必要に応じて新たな提言を行う所存である。
最後に、国民・市民の皆様には、眼前の危険に対して、命を守る行動を取っていただくことを願う次第である。
以下は、「COVID-19 災禍を踏まえた社会とインフラの転換に関する第2次声明」から「感染症と自然災害との複合災害に備えた強靱な社会への転換」の事項について留意すべき事項を抜粋したものである。
<以下、声明の抜粋>
(3) 令和 2 年 7 月豪雨の避難に関する課題として、住民が感染症の心配をせずに安心して指定避難所を利用できる環境の確保が必要である事があげられる。このためには、指定避難所が密を避けうる十分な広さを確保し、環境面、衛生面でも安心して利用できる設備を有することが必要である。
(1) 感染症複合災害においては社会的距離確保等のため、指定避難所等の適切な管理、指定避難所以外の避難所の確保、広域避難の実施が必要である。さらに、住民が安心して避難するために、住民への避難所の状況等に関する適切な情報提供が必要である。
(2) 通常の避難所以外の避難所確保や広域避難実施のためには通常より長い準備時間の確保が必要である。現在実施中の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)国家レジリエンス(防災・減災)の強化(SIP 防災・減災)では、スーパー台風や線状降水帯の予測技術、市町村の適切な避難指示発令等を支援するシステム等を開発中である。この実現により、避難行動の決断について十分なリードタイムの確保と適切な避難所への住民の誘導等が可能となるため、研究開発の一層の加速と早期の実装を図るべきである。
(3) 福祉施設や病院など要配慮者利用施設での災害対応は感染症複合災害のもとでより重要となる。このため、災害時の適切な情報提供のみならず、中長期的にこれら施設の適切な立地の促進等のために、地理空間情報等のより有効な災害情報の提供を推進するべきである。
(4) 災害時に感染症から身を守るには、住民自身の対応が重要である。このような災害時に必要不可欠である自助・共助の能力を向上するためには地域の災害対応力を高める地区防災計画の策定・活用の促進が必要である。われわれ土木技術者は、様々な視点や立場から、地区防災計画の策定立案に積極的に関与し、地域防災力向上への協力を継続的に行うべきである。
(1) 感染症複合災害の復旧過程においては、作業員、資機材、ボランティア等の動員に通常時よりも大きな支障を生ずる。さらに衛生上の配慮のため、作業手順が多くなると同時に従事者の作業効率も低下することから、より多くの人手が必要となる。このため、交通インフラの管理者は、健全な機能を維持し、さらに病院、避難所、行政機関の災害対応を支えるよう、交通インフラの適切な整備・維持管理を推進すべきである。
(2) 複合感染症下においては域外からの来訪者に対して拒絶反応が発生しやすい。このため、域外からの作業員、資機材、ボランティア等の動員を地域住民の安心感のもと円滑に行うために PCR 検査、抗原検査等の感染症対策の体制整備や費用負担の在り方、他地域からの移動の際の対応マニュアル等を整備・構築すべきである。さらに、これら災害時における「エッセンシャルワーカー」へのワクチン接種の優先度についても、災害発生の緊迫性に鑑みれば然るべき考慮が求められる。