2013年3月27日(水)、土木学会社会コミュニケーション委員会主催、教育企画・人材育成委員会ダイバーシティ推進小委員会の協力による「第1回 土木a la modeドボジョ!が少女マンガのヒロインになる。」が開催されました。これは、幅広い視野から土木に関連する旬の話題を取り上げ、ゲストをお招きしてお話を聞こうというもの。
初回のテーマに選ばれたのは、“ドボジョ”。パワーショベルなど建設機械のオペレーターやダンプカーの運転手といったバリバリのガテン系はもとより、計画の立案、設計や構造計算、現場の施工管理といった土木系エンジニアとして働く女性のことを言います。
一昔前は、3K職場として若い男性でも尻込みしがちだった土木の世界にも、現在では相当数の女性が進出し活躍しています。そうした中、女性向けのコミック誌に“ドボジョ”が連載されました。
この漫画は、少女漫画家の松本小夢さんの作品。ヒロインは、五人兄妹の末っ子として生まれた“宗助桜子”。母親が、自分を産んでまもなく亡くなった為、父と四人の兄たちから蝶よ、花よと大事にされて育ち、女子高、短大から銀行員へと、おしとやかな女性に育って欲しいという家族の願い通りの人生を歩むはずでした。が、しかし…桜子は、自分が本当にやりたい仕事は何なのか迷っていました。そうして迎えた銀行の入社日、出勤途中に偶然目にした建材会社の募集広告に、子供の頃から見続けていた、建設現場で働く父親の姿にあこがれ、大きな機械を操りながら人々が喜ぶような大きなモノを造る仕事をしたいという気持ちを抑えきれず、銀行には出社せずそのまま建材会社に飛び込んでしまうところから物語が始まります。
会場では、社会コミュニケーション委員会の山﨑委員長から、『土木のことを社会一般にもっと理解してもらえるよう、いろいろな企画を催してきましたが、これまではどちらかというと業界の重鎮の方々に話を聞くことが多かった。それも良いがもっと軽い感じで土木を語れる場がないだろうかということで、社会コミュニケーション委員会では、より気軽に話し合える場としてトークサロンを位置づけ、なおかつ女性の活躍の場もあることを広めていくことが大事だと考えて、今回の「第1回 土木a la mode」で、ドボジョ!を取り上げることにつながりました。本日は皆さん楽しみにしてください』と開会の挨拶を頂きました。
次いで、ダイバーシティ推進小委員会から、山田菊子幹事長の報告がありました。まずは、土木学会100周年記念出版「継続は力なり―女性土木技術者のためのキャリアガイド―」の紹介をしつつ、リアル世界のドボジョについて数字の解説がありました。
初めは、我が国に今どのくらいのドボジョがいるかです。2005年の国勢調査で、女性の土木・測量技術者の数が6,640人と報告されています。女性の割合は2.2%だそうです。また2012年の女性の土木学会の正会員数は918人(2.9%)、 学生会員 658人(11.7%)という数字があります。その年齢分布をみてみると、20~30代の若い女性が最も多いという結果。就いている仕事は、教育関係、コンサルタント、建設業、官公庁等が多い。つまり近年、若い層で続々と土木の世界に女性が進出している現実があります。
そうした中、ドボジョの歴史を振り返ってみると、1982年の土木学会誌に「女性技術者登場」という特集が組まれ、女性土木技術者の座談会の様子が掲載されました。これを機に、1983年には土木技術者女性の会が発足。その後、1990年前後に一般企業でも女性技術職の採用が始まり、2004年には土木学会、地盤工学会に男女共同参画に関わる委員会が設置されたという経緯があります。こうした時代の流れを背景に2011年、講談社の女性向けの月刊漫画誌Kissに「ドボジョ!」が連載されたとのお話がありました。
今回のテーマ「~ドボジョ!が少女マンガのヒロインになる~」のお話が始まりました。
【出演者】
TJさん : 講談社 Kiss編集部 編集担当
高橋さん : 土木学会社会コミュニケーション委員会 高橋薫委員
山田さん : 土木学会教育企画・人材育成委員会ダイバーシティ推進小委員会 山田菊子幹事長
岡村さん : 土木学会教育企画・人材育成委員会ダイバーシティ推進小委員会 岡村美好委員長
一条先生 : 漫画家 一条ゆかり先生
高橋: Kissは女性向けコミック誌という事ですが、どんな方が読まれるのですか?読者層はどうなっていますか?
TJ: この雑誌は今年で創刊20周年になりますが、読者は20~30代の女性が99%と若い女性の圧倒的な支持を得ています。ただ、こうした雑誌の特徴として、創刊当初から読んでいる方が本と同じく成長していきますので、だいたい上は50代の方まで読者層が広がっています。
高橋: 漫画のテーマに土木という女性には縁遠いと思われるものを、そしてヒロインに土木業界で働く女子を選んだ理由は?
TJ: 松本先生との打ち合わせの中で、もともと働いている女性を描いてみようという話があり、その中ではハードな世界、つまり建設とか土木といった分野で主人公は中性的な女性をモデルに恋愛を絡めるというアイデアが出てきました。そうした中、先生に渡した資料の新聞記事に「ドボジョ」という言葉が載っていて、それが気にいったのでタイトルにすることになりました。
高橋: つまり、当時の新聞記事に“ドボジョ”という呼び名があったということですね。いつ頃からそう言われるようになったのでしょうか?どなたかご存知ですか?
山田: 私が知っている限りでは、最初は関東学院大学の工学部の女子学生たちの間で土木系のクラスの女子のことを「ドボジョ」と呼び始め、その後、いつの間にか世間に広まっていったという説があります。
高橋: この漫画のヒロインのモデルとなった人は実在するのですか?
TJ: イメージした人は居ますが、具体的なモデルは存在していません。松本先生自身は、「グリーンフィンガー」という作品を描くほど園芸がお好きでした。それで取材も兼ねて、よく園芸屋さんに出入りしていたのですが、たまたまそのお店の隣に建材会社があり、そこへ出入りするニッカボッカを着用した女性をよくみかけていたのです。それまで、そういう服装の女性を見たことがなかったし、とてもカッコ良いと思ったそうです。イメージとなっているのは、その人なので、それがモデルだと言えなくはないですが…。そういう事から、建設現場や土木の世界で働く、いわゆる土木系女子に焦点をあてようとなったのです。
高橋: キャラクターの設定はどういうふうに考えていったのですか。
TJ: 松本先生は、漫画家としてデビューする以前は、トレーサーとして大きな橋梁の工事事務所に派遣社員として一年間勤めていたことがありました。そこに単身赴任してきていたゼネコンの監督さんが、半年に1回くらいしか家に帰ることができないと言っていたことが印象に残っていて、それが桜子の父親のキャラクターの参考になっていると思います。
作品の中にも、この時の工事現場で見聞きしたことがヒントとしてたくさん生かされています。例えば、橋をかけるということは、その橋の名が地図に残るほど大きな仕事なのですが、必ずしも大きなモノを造りたいというのではなく、橋が完成することで誰かが喜ぶ笑顔が見られるというところを大事にしていると監督さんが言っていたと。だから、桜子の父に「自分の仕事で誰を照らすのかが大事なんだ」と語らせています。
高橋: 先生がトレーサーだったというのは意外でもありますが、図面を描くのが好きだったとか?
TJ: 先生自身はもともと理系という訳ではなく、むしろ絵を描くことが好きだったのでトレーサーになったと…。漫画を描き始めてからもその時の癖が残っていて、枠線がきっちりと描かれていないと気持ち悪いと言っておられます。(笑)
松本先生は、今も兵庫県在住なので当時だと瀬戸大橋などの工事現場ではなかったかと想像されますが、実はそれはドボジョの編集が進んでからわかったことです。
高橋: 桜子は最初から現場での仕事をめざすという設定にしたのですか?
TJ: 実際の土木業界で働く女性のうち、設計製図などの職に就きながら、そこから現場に行って働くこともある、というのは現場事務所でトレースをしていた頃にわかったようです。先生自身も設計変更になって図面を直すのに現場に行って寸法を測りつつ修正図面を起こすというような経験があったからこそ、桜子というヒロインのキャラクター設定が可能になっていたのだと思います。
高橋: 漫画のキャラクターは一度決めたら変わらない?
TJ: いろいろあります。「ドボジョ!」のキャラクターは、連載を始めてから読者の反応で次第に変わっていきました。私と先生と話し合って決めていったのです。資料を見ながら次号はどうしましょうというふうにコミュケーションをとりながら制作を進めていきました。連載中はだいたい次の1回分ずつしかお話が出来て来なかったので、最後まで結末はどうなるかわかりませんでした。
高橋: 土木をテーマに一番描きたかったことは何ですか、描きにくかったことはありますか?
TJ: 普通の少女マンガとは違う描写、例えば背景なども難しかった。工事現場は、だいたい仮囲いがしてあり、一般の人は中を見ることはできません。だから、話の中でヒロインが働いているところを描こうにも実際に見たことがないので想像するしかありません。具体的には、建設機械に実際に乗ったらどういう風景がみえるのかとか…。現場の様子、作業の具体的なことがつかめなかったのが漫画を描く上では非常に難しかったと思います。そんな中でも「土木学会誌」に連載されたモリナガ・ヨウさんの単行本「土木現場に行ってみた」とか、「働く車大全集」などは土木工事現場で行われている様子などがよくわかり参考になりました。
高橋: 漫画が連載されている時に、出来れば土木学会としては松本先生にリアルドボジョに会って取材をしていただいたら良いと思っていましたが、かなわず…。連載を描いている時、土木系女子をどのように調査・取材されたのですか?
TJ: 連載の場合は、普通、最初から何回と、回数のめどがあって始まるので、ドボジョは上中下の三巻構成というのが先にありました。その時は、先生にも編集部にもリアルドボジョの方に知り合いがなく、取材して描くというのが間に合いませんでした。もう少し早く、高橋さんに会っていたら変わっていたかもしれませんね。私たちも、取材に行ったのですが、女性が働いている建設会社に頼むにしても、広報の方を通して話が進むため、どうしてもオフィシャルな取材になってしまい、なかなか女性としての本音が聞き出せないというもどかしさがありました。
例えば、広報の人が同席されているので、仕事での失敗談などは言いたいのだけれども言えないという雰囲気が伝わってきたりします。その方の失敗や現場でありがちなミスとかなども聞きたいと思ったのですが、「それを描くのですか?」と聞かれ、それでは話せないと…。それだけ、現場にとって失敗、つまり事故が起きるという事は重大なことだとわかります。もう少しリアルな話として、現場に出ていることで実感として困っていることがありますか?と聞くと、常にまわりが男の人だらけだから言葉使いが悪くなってしまうとか、そういう話をもっとプライベートにお会いして話していただきたいのですが、そういう情報もなくて苦労しました。土木技術者女性の会で出されている「Civil Engineerへの扉」などの資料、対談記事なんかも拝見していますが、どうしてもオフィシャルな雰囲気になっているので、そういう中からエピソードを拾って漫画として肉付けしていくのが相当難しかったです。
高橋さんと知り合うのがあと2年早ければよかった。もし「ドボジョ!2」の企画が出来たなら、今度はぜひリアルドボジョに取材したいと思います。(笑)
連載中の読者コメント(一部) ・9月号の『ドボジョ!』を読んで、失敗することを怖がらずに、前に進むって難しいと思いました。頑張ろう! (山形県 ちーぼぅさん) ・『ドボジョ!』が大好きです。桜子の頑張りに励まされています。苦労の中でも一生懸命な桜子と、現実世界で汗する土木工事の方々を応援しています。(福島県 Sさん) ・桜子のような女の子はきっといるでしょうネ! 男の人の現場で働く女子はカッコイイ!!(福島県 Rさん) ・『ドボジョ!』が熱い。よく見る光景で馴染みはあるけど、未知で、だけど奥深いこの世界はとても魅力的。話も読みやすいので、すっかりファンです。(兵庫県 Kさん) ・夫が現場関係の仕事なので、『ドボジョ!』には聞いたことがある言葉が出てきて、すごくおもしろいです。(和歌山県 Mさん)
高橋: このあたりで会場にいらしている方の声を聞きたいと思います。現場でお仕事の経験のある方はいますか?
参加者A: ハイ。
高橋: 現場でここは困ったということはありますか?
参加者A: 昔と違って、今は現場に女性も増えてきていますから、更衣室とかトイレなどの環境面は概ね整っていますので、だいたいのことは想定内だったのでとくに困ったということはありません。むしろ、極端に女の子扱いをされることにとまどったというのはあります。それよりも意外だったのが、ヘルメット焼けがすごくて困りました…。(笑)
高橋: 初めて聞きますが、どういう日焼け?
参加者A: ヘルメットのヒモが耳のところでVの字になるので、そこだけ日焼けせず白くなるので、私たちは別名「勝利のVサイン」とも言っていましたが。(笑)
高橋: なるほど、とても具体的な悩みですね。(笑)
参加者B: あとは長靴ですね。だいたい大きすぎてブカブカなんです。歩きにくいのが困りますね。新入社員の時、現場で先輩について歩いていくのですがブカブカの長靴のせいで早く歩けないのでモタモタしてしまう。すると早くと言われるので、ついつい小走りになったら、今度は逆に「現場では絶対に走るな!」ときつく叱られました。というのも、工事現場で人が走るということは、ホントに重大な事故があって、もう逃げるしかないというサインなので、簡単に走ってはいけない。ブカブカの長靴で先輩についていかないといけないし、走ると怒られるということで、とまどった記憶があります。作業服もだいたい大きいです。最近になってようやく女子社員のいるゼネコンでも、作業服にSサイズやSSサイズを作ってくれるようになりました。
高橋: 今の話は実にリアリティがありますね。最近はいろんなところで現場見学会などが行われるのですが、エントリーした段階で長靴サイズを知らせてくださいと案内があり、ウエルカムな心遣いがあります。もちろん当日は動きやすい格好で汚れても良い服装で来てくださいと言われるように随分と変わってきたと思います。
高橋: 具体的な編集のお仕事についてお聞きします。漫画の編集というのは具体的にどういうことをするのですか?
TJ: 編集者は、まず下書きの段階から作品に目を通す最初の読者という感じでしょうか。そこで作家さんの話をよく聞いて、キャラクターや、ストーリーのアイデアという部分で、よく話し合って二人三脚で進めていくというか、これは作家さんによっていろんなやり方があるのですが…。
松本先生は割と編集と話すのが好きで、話し合っている中で出てきたアイデアを膨らませたりするタイプです。ドボジョ!については、連載の時にだいたい単行本で3冊くらいの分量でというゴールが決まっていただけで、話の構成はかなり先まで決まっていたという訳ではありません。連載1回分でだいたい50頁くらい。大まかにあらすじを文章で書いてもらいそれを見ながら電話で打ち合わせします。それを1回ごとに、次はどうしましょうというように詰めていきました。
高橋: そういう中で、これは外せないという大事な仕事はなんでしょうか?
TJ: 下書きをよく読んでみると、前回の話の流れとは矛盾する部分が出てきたりしますので、そういうのを直しつつ下書きを描いている間に「実際の現場ではどう見えるのか?」と聞かれ、資料を探しに行ったりしました。それから、業界ではネームと呼びますが、鉛筆書きでざっくりしたコマ割りをし、登場人物の会話を入れた下書き原稿をFAXで送ってもらい、それを読んでまた打ち合わせをします。
その中で松本先生は、今回は現場の絵が多そうだとか、重機を描かなくていけないから大変そうだとよく言っていました。実際、背景とか描き込むのはかなり大変ですからね。(笑)とはいえ、ストーリー優先なので絵を描くのがいやだと思っても仕方ないですし。そうした下書きチェックで大事なことは、絵の矛盾を見つけること。例えば、前のシーンで右手に持っていたモノがページをめくったら左手に変わっているような矛盾が起きてしまうので気をつけないといけません。そういう繰り返しが作家と編集者のパートナーシップになっていきます。
高橋: 作家さんと編集者が話し合って作品になっていくというのがよくわかりますね。
TJ: そういう面では、編集者の個性、好きだという面も苦手だという部分も漫画に取り込まれていきますので、連載途中で編集者が変わると話の流れががらりと変わるということも有り得ます。例えば、ドボジョ!で言えば、桜子は最後にはお父さんの跡を継いで橋梁工事をしているとか、そういうふうに物語が進んだかも知れません。
土木でのモノづくり、構造物を建設していくのは設計図というもので、完成形をみんなが共有しながらやっていきますが、漫画の場合はもっと多様です。お話の終わりも決めていなくて、いわば設計図なしで突き進んでいくような。その設計図すら走りながら描いていくというところがあります。松本先生は、桜子のことを男と間違えていた建材屋の営業マンに、もう一人別の男性が出てきて、どちらと付き合うか迷うというような案をもっていたらしいのですが、そういうキャラは出てこず、むしろ1回で消えるはずのキャラクターが何度も出てきて育っていったりと、漫画の世界ではこういうことがよくあります。
高橋: もう少し、会場から質問を受けましょうか?漫画制作について何かご質問はありますか?
参加者C: ハイ。ドボジョに関してドラマ化や映画化といったオファーはありますか?また、もしドラマ化の話が来たとして、先生はこの人に桜子の役をやって欲しいとかキャスティングの案があったりしますか?
TJ: 今のところ、話はありません。でもTVドラマ化のような話は、例え50回あったとして、そのうち1回が実現するかどうかというものです。TV局では何曜日の何時からはドラマ枠というように決まっているので、それらはだいたい半年から1年先というスパンで動いていますので、構想話というのはどんどん来ますがほとんど実現しないし、私たちも話半分で聞いています。
原作漫画を選んで作家さんに打診することから、どういうスポンサーに声をかけるか、あるいは、どういうスタッフでやるかという局側の事情もありますし、ヒロイン役にはどういう女優さんが良いかとか、そこまで話ができても、お願いしたい女優さんがドボジョというイメージは合わないとか言われたらそこでダメになりますし。そういう現実の壁がたくさんあります。なので、編集者としてはドラマ化にあまり思い入れをもってしまうとダメな時にへこむので、淡い夢だと思っています。むしろ、そういう話は読者の方が盛り上がっていますね。
高橋: ここでもうお一人、コメントをいただきたいと思います。土木学会の教育企画・人材育成委員会のダイバーシティ推進小委員会の岡村委員長です。
岡村: 仕事の都合で少し遅れてトークの後半から参加させていただきました。土木学会の岡村と申します。こういう漫画があることは聞いており、このイベントが行われるということになったので単行本も読ませていただきました。自分も昔はかなりの漫画少女だったので漫画は好きですが、どうもヒロインと相手役の男性の顔の見分けがつかず、第一巻が終わる頃にようやく判ったということで、自分がいかに歳をとってしまったのかと痛感しました。(笑)
私は山梨大学で工学部の土木学科第一号の女子学生ということで入ったのですが、今は女子学生も増えて当時と比べるとまるで違う世界にいるようです。ヒロインを始め、今どきの登場人物たちの姿が土木と絡めて描かれていて、新鮮な感覚で読むことができました。土木学会も多くの方になんとか土木に触れて欲しくて、これまでに、小学校向けに本を出したり、女子中高生を集めたイベントを企画したりと、いろいろやっていますが、漫画という媒体での露出、インパクトには比べようがありません。
漫画になることでまったく土木というものに興味のなかった人にも、主人公を通して土木というものの魅力や役割がどんどんと伝わっていくことに対してとても嬉しく思っています。続編では、結婚後の主人公がキャリアを継続する様子をみたいです。ありがとうございました。
高橋: ハイ、こうしたエンターテインメント性の高い媒体で連載になること、単行本で繰り返し読めるストーリーにしてもらえたというのがとても良かったと思います。
TJ: そういっていただけると先生も喜ぶと思います。私もここに来るまで、本物の業界の人からどういう反応、ドボジョをどう見てもらえるかわからなかったので不安でもありました。
ここで読者からのコメントを紹介すると、これは雑誌の欄外に載せるものでごく短いものですが、それを見ていても「私もドボジョです」という人がおらず心配でした。ただ、工事現場というものは本当に身近にたくさんあり、今まではまったく無視していましたが、これからは仮囲いの中で何が行われているのか、桜子のような人も働いているのだという意識で見られるようになったという書き込みもあって、土木に興味を持ってもらえたということについては喜んでいます。
先ほど、失敗談を描きにくいと言いましたが、実は、制作する側にとっては、現場の人にとって安全第一というのがどれほど大事かということがわかって良かったと思います。というのも、初めの構想では、ヒロインが失敗して挫折して、それを乗り越えて成長するというようなストーリーにしたかったのですが、実はそういう軽い気持ちで事故や工事の失敗を描くのは良くないということが理解できたのは大きな収穫でした。普段思っている以上に現場の真剣さがわかったことは次回作にも生かせると思います。
高橋: ここでもうお一人、今回のイベントの陰の立役者でもある、漫画家の一条ゆかり先生をご紹介します。
一条: 皆さん、こんにちは。私がなぜここに出てきたかと言いますと、実は高橋さんの友達なのです。高橋さんから土木イベントをするので話してくれと言われたのですが、漫画の描き方については話すことは出来ても、土木のことだとなぜ私にという感じで…とはいいながら、実は、ドボジョが連載されている頃から見ており、たまたま講談社のKissの編集長を知っていたので彼を紹介し今日こうしたイベントになったという訳です。
高橋: 一条先生は、「有閑倶楽部」「プライド」「砂の城」などTVドラマ、映画、舞台化された作品が多くありますが、キャスティグについてはどんな印象でしたでしょうか?
一条: なかなか思うようにはいきませんね。あれこれ注文はつけるのですが…。(笑)
高橋: たくさんの裏話をありがとうございました。一条先生は集英社がメインですが、ドボジョ!の松本先生は講談社ということで、土木の世界でもコラボも考えていただければ…。(笑)
それでは、最後に「ドボジョ!」の単行本三冊セットおよび土木学会100周年記念出版「継続は力なり―女性土木技術者のためのキャリアガイド―」三冊を会場にいらっしゃる方に抽選でプレゼントして会を終わりたいと思います。(拍手)
土木業界にもどんどん女性が進出するようになり、いろいろと変革が起きていますが、新しく生まれてくる動きが多くなれば、それだけ業界は活性化していくので良いことではないかと思います。「ドボジョ!」の続編にも大いに期待したいと感じました。
(社会コミュニケーション委員会委員 中野朱美)