原子力土木委員会幹事団
日時:2020年1月21日(火) 16:00-17:30
場所:土木学会講堂
講師:佐竹 健治 先生(東京大学 地震研究所 教授)
演題:「M9クラスの超巨大地震と津波:低頻度・巨大災害の評価」
概要:
2004年12月に発生したスマトラ・アンダマン地震は,インド洋で記録された初のM9クラスの超巨大地震で,史上最悪の23万人もの犠牲者やインド・マドラス原子力発電所での津波災害を起こした.2011年3月の東北地方太平洋沖地震は,日本で記録された初のM9地震で,甚大な津波災害や福島第一原子力発電所の事故をもたらした.最近の古地震・津波調査では,両地域とも過去にも同様な地震・津波が起きていたことがわかってきた.このような低頻度・巨大災害についての我々はどこまで理解・評価できているのか議論する.
参加人数:115名
講演会冒頭、小長井委員長より「近年、学術の様々な分野で研究不正や自殺など残念なニュースが多いように思われます。それぞれが優秀な方であるのに、狭い分野の中で他の方々に相談できなかったことも一因であるように感じます。原子力土木委員会では、議論される分野が袋小路にならないよう、これまでも他分野の先生に講演を頂いてきました。本日の佐竹先生のお話しは「低頻度・巨大災害の評価」とのこと。低頻度の事象を評価するためには、理学に限らず過去の歴史に遡って幅広い分野横断的な知識の集約が求められると思います。この観点から本日の佐竹先生のお話しは大変楽しみです。よろしくお願いいたします。」との開会の挨拶があった。続いて、岡田幹事長より、佐竹先生の経歴が紹介された。
佐竹先生の講演では、20世紀から現在までの地震学の発展や長期予測手法についての丁寧な説明があった。地震学に大きなインパクトを与えた2004年インド洋津波の概要と、それを受けた日本国内外での古地震研究の進展、さらに、2011年の東北地方太平洋沖地震後にスーパーサイクルなどの新たな概念が示されつつあるとの最新の研究動向が紹介された。東北地方太平洋沖地震以降の国内の地震想定については、そもそも最大規模の地震としての規模の想定に議論があることや、地震履歴から最大規模を推定することの難しさが示された。地震起因の津波については、偶然的ばらつきと認識論的不確定性を考慮できる確率論的津波ハザード評価が津波評価小委員会などで開発されていることが紹介された。
会場からの質疑として、日本海溝の場合は、東北地方太平洋沖地震の前にセグメント区分がなされていたが、各セグメントの歪をすべて解放した地震は知られていなかった。それに対して、南海トラフの場合は、すべての歪を解放するセグメント区分と地震発生間隔の対応について理解が進んでいる。内閣府が作成した南海トラフのM9レベルの津波波源モデルは、地震を起こす領域(固着域)の外側まで考慮している点が学術的ではなく、過大評価なのではないかという問題提起があった。また、過去の地震履歴の解釈により将来予測に用いる統計モデル(例えば、Brownian Passage Time(BPT)モデル)のパラメータが変化し、結果として将来の発生確率が大きく異なるという問題に対して、地震履歴の解釈の違いという認識論的不確かさの取り扱いにおいて、関係する専門家の意見分布を反映し意思決定する手法(SSHAC:地震ハザード解析専門委員会)の活用が考えられるとの提案があった。これについては、SSHACのコスト・作業量を考えると、数年程度で研究が大きく進展する分野においてSSHACを活用するのか、随時最新の研究結果を反映するのかについての議論が必要であるとの意見があった。過去のM9クラスの巨大地震による30mを超える巨大な津波高の要因となる波源の特徴の共通性については、M9規模の地震の発生例が少ないため共通性とまで判断するのが難しいとの認識が示された。
写真1 挨拶を行う小長井委員長(右)と司会の岡田幹事長(左)
写真2 ご講演いただく佐竹 健治 先生
写真3 会場における議論の様子
以上
(講演会の様子は土木学会Facebookにも掲載されております。)
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20200122_公開講演会実施報告rev1.pdf | 538.69 KB |