近年の計算機性能や有限要素モデル化技術の発展はめざましく、橋梁全体系を対象とした大規模な3次 元モデルによる計算や、複雑な現象に対する高精度シミュレーションを比較的容易かつ短時間に実施できる環境が整いつつあります。また、国土交通省はBIM/CIMの導入を積極的に推進しており、社会資本の計画・調査・設計から、その後の施工・維持管理の各段階における3次元モデルの活用が今後ますます加速化するものと予想されます。このような背景から、鋼橋の構造性能を3次元モデルにより評価する仕組みを整備することは重要であり、鋼橋のさらなる発展に資する技術であるといえます。
現行の道路橋示方書や鋼・合成構造標準示方書において、鋼橋の構造安全性や耐疲労性の照査は、骨組み解析などで得られる断面力や公称応力を用いて行われます。また、骨組み解析では明らかに力学挙動が把握できない場合などにおいては、シェルやソリッドなどの要素を用いた3次元有限要素解析が活用されていますが、それらの結果を現行の照査法にそのまま適用することは容易ではなく、断面力相当の応答値への変換が必要であったり、局所的な応力やひずみの取扱いが不明瞭であったりと、3次元モデルに基づく照査を行う場合には多くの課題があります。
鋼構造委員会では、2004年に「3次元FEM解析の鋼橋設計への適用に関する研究小委員会(委員長:山 口栄輝教授)」が設立され、3次元有限要素解析を用いた次世代の橋梁設計の実現に向けて大きな一歩が踏み出されました。その中で、例えば、3次元モデル化のためのデータ作成における課題や、3次元モデルによる設計の導入や効果を議論する上で、その当時の許容応力度法が大きなネックになっている点など、多くの問題提起がなされました。一方で、近年のBIM/CIMの普及や、部分係数と限界状態に基づく設計法への移行など、橋梁分野の周辺環境は大きく変わりつつあります。また、3次元モデルを用いた構造性能評価に関しては、その後もいくつかの小委員会で精力的に取り組まれており、多くの要素技術が蓄積されています。このことから、鋼橋の構造性能照査における3次元有限要素解析の活用についてあらためて議論することは有意義であると考えられます。
ところで、鋼橋の構造性能評価に有限要素解析などの数値計算を援用する場合、対象とする問題に対して、解析ツールの性能・特性の検証 (Verification) と解析結果の妥当性確認 (Validation) が重要な課題 の一つです。このV&V (Verification & Validation) に関する取組みは、航空宇宙や機械などの分野では積極的に議論されていますが、橋梁分野での検討が十分に進んでいるとはいえないのが現状です。
本小委員会では、3次元有限要素解析に基づく鋼橋の構造性能照査法の体系化を目指し、そのための基礎資料の収集と整理を目的としています。
以下の調査研究の活動を行います。