2011年度・河川技術に関するシンポジウム
オーガナイズドセッション
「河道設計技術」の報告
○発表 池田和也:阿賀川における樹木管理と礫河原の再生について
・阿賀川は昭和30年代には礫河原であったが40年代以降樹林化した。30年代以前は河床高が堤内地盤高と同程度で出水により川幅が変化していた。昭和40年代から50年代にかけ砂利採取で河道を掘削したため高水敷の固定化が進んだ。昭和60年代以降は砂利採取を禁止したことにより横断面が維持され樹林化した。
・樹木群により出水時の堤防に水衝部が形成されるようになった。樹林化の進行により河道の固定化が進み、澪筋の川幅が狭くなり、水深は深くなった。
・平成21年度から自然再生事業に着手した。樹木の伐根、高水敷の切り下げ、舟底型河道の形成、巨石の配置を行っている。維持、改修、自然再生事業を一体的に実施し、生物の生息環境にも配慮した整備としている。
・平成22年6月30日に小規模の出水があり、礫河原が冠水した。冠水頻度の変化により、自然の営力で礫河原の維持が図られることを期待している。
・最終目標は、舟底型河道による安定河道の整備。川幅水深比を大きくして流速を抑え、蛇行させることにより川の振れ幅を大きくしてやろう。併せて高水敷を切り下げによる礫河原の再生と自然の営力と定期的な人為の攪乱による樹木の再繁茂の防止、それによる風景の再生を目指している。
○発表 大賀祥一:江の川上流部における治水と環境の調和した河道断面形に関する評価
・江の川は、米軍撮影の航空写真によると、昭和22年では礫河原が卓越していた。その後、土師ダムの洪水調節により平均年最大流量が30%減となり、攪乱頻度が低下し、樹林化が進んだ。自然再生事業により、平均年最大流量時に目標水理量を設定し、高水敷の切り下げ高、切り下げ範囲を求めた。
・江の川上流部にある吉田、尾関山観測所の河道断面において、福岡の式より、流量観測結果の各流量規模を用いて評価すると、無次元河幅は,無次元河道形成流量に対して若干狭い河道設定となっており、水深については,若干狭い河幅により大きな水深を持つよう変化している。
・平均水位+0.4mで敷高を設定し、透析層を設置することにより樹木の侵入の防止を図っている。高水敷を切り下げたところは無次元掃流力が増大し、切り下げ部の攪乱が期待される。
・福岡の式から見た河道安定性を評価すると、自然再生後は福岡の式と近似する変化を示し、単断面河道から舟底型河道へと安定的に遷移した。
・副次的効果として、澪筋の固定部で堆積が見られ、舟底型に安定的に遷移した。
○質疑応答
<泉>河道掘削の仕方、河道断面の設定の仕方をテーマとして議論いただきたい。江の川は準二次元計算をやった上で低水路幅を決めたということだが、阿賀川は、川幅はどう決めたのか?
<池田>瀬は正常流量5m3/sが流れる時に水深30cmを確保する川幅とした。淵は河床勾配などから上下流の瀬との連続性を考慮して幅60mとした。
<泉>深く掘れば川幅は狭くてもよいが、どのように考えているのか。
<池田>地元から魚の生息環境に配慮して欲しいという要望があった。カワウの被害に対し、魚の隠れ家となるものとして淵を検討してきている。
<泉>環境面で必要な深さがあって、必要な流量を考えて、幅が決まっていく、ということか。
<大賀>江の川は川のスケールに応じた無次元掃流力τ*=0.06~0.07をうまく抽出できる川幅となっている。
<島谷>一体何が自然再生かわからない。何のためにこの事業をやっているかを説明して欲しい。環境との関連という割に環境の説明がない。どのような自然を再生しようとするかという概念整理がない。一つ目の話も治水の内容となっている。
<池田>阿賀川では昭和30年代以前に河原で生息していた生物の生息環境を得るため、その環境基盤となる礫河原の再生を行っている。
<知花>τ*=0.06~0.07というのは断面平均的な議論、先程の説明は水深、低水路の議論、これらの間に河床波があり、τ*と水深などの大きさからどのような瀬-淵が出来てくるということが分かれば島谷先生の話に対応できてくると思われる。ただ河原を作ればよいというものではない。個別の生物について見ることが必要。
<江頭>もとの河原がどういう条件で維持されており、再生する時どのような河原にするのかという視点が抜けている。単にτ*というのではなく、攪乱の大きさと頻度についての議論も必要、また、上流の土砂供給環境などが今後も維持されないといけないといった広域視点が大事では?
<泉>正論だが、今回は設計例を見て議論したい。河道断面をどう決めるかといった具体的な話をしていきたい。フィロソフィーだと大学人ばかりの議論になる。
<渡辺康玄>阿賀川で昔は川が移動して礫河原ができていたが、今は移動が止まって河畔林が出来た。巨礫を並べているのはどういう意味か。もっと広く礫を敷いてもよいのでは。
<池田>堤内側に住宅があり、治水上の安全確保のため、深掘れを防ぐこと、さらに生物の生息環境も確保できるのではないかと。
<渡辺>昔、みお筋が移動して河原が出来ていたことを考えると、巨礫を敷く幅を拡げることで河道を動かすことも考えられないか。
<池田>この地区については流れをコントロールしたい点を重視した。
<福岡>自然再生事業における断面の決め方はよく分かっていない。試行の中で、どのように変化していくのか見ながら検討している。水深、川幅から土砂移動によって概ね変化を考え、変な浸食などが起こらないような形を求めていく。まずは試みにやってみるスタートラインの段階。自然再生事業を環境ばかりいって欲しくない。治水と環境を両立する形のものとして考えてほしい。治水上の流量の大きいときにも環境上の条件にもある範囲で両方に適するものを考えていくのが大事。
○発表 鈴木克尚:神流川における外来樹木種対策を組み込んだ河道整備
・ハリエンジュによる河道内の樹林化が進行し、伐採区間、程度の指針が求められている。洪水の営力と河道整正により樹林化を抑えたい。
・神流川の80%は下久保ダムの流域であり、ダムにより河道特性が変化した。昭和60年代から樹林が増加し、現在3割強。昭和43年以降平均年最大流量が約50%減。これにより低水路幅が縮小し、砂州形状が変化。多列砂州から単列砂州に変化し、一部で中州が残され樹林化した。
・今後、河道は上流からの条件変化により単列砂州河道になると予想。中州により洪水時に偏流が生じ、河岸浸食が発生している。
・基本的な考え方は、平均年最大流量にあった低水路幅に誘導し、単列砂州を維持する。
・今後の課題は、モニタリング。特にハリエンジュの再生萌芽の監視やサイクル型管理システムの構築。
○発表 松田浩一:固定砂州での掘削路開削による洪水攪乱の誘発と樹林化抑制対策に関する研究(その2)
・攪乱頻度の低い固定砂州内に掘削水路を作り、中小洪水による攪乱で比高差の解消等を目指す。
・渡良瀬川は、河道内公園の整備により河道が固定化。掘削の効果は以下の4点。
①土砂供給
②再樹林化の抑制
③水衝部の流速低減
④新たな水辺環境の創出
・掘削路の設置により徐々に課題を解消していきたい。
・平成21年洪水降水は平均年最大流量以下であり、掘削路部分のみ攪乱、浸食が発生し、下流部で堆積が生じた。これにより河床材料が粗粒化した。
<須賀>神流川は下久保ダム完成前に比べ粗粒化が進んでいる。平均年最大流量が小さくなっている。これらを考えると昔、複列河道であったのに単列を目指すのは逆ではないか。粒度が細かいと単列河道になりやすい。昔の状態と違い、粒径が大きいとランダム現象が起こって蛇行しやすくなるため、複列河道化させた方が良いのではないか。
渡良瀬川は説明のとおりではないかと思うが、疑問としては、攪乱しすぎたらどうなるか。かつて他の川でやったことがあるが、今は跡形もない。目的そのものが良いかどうかを考えるべき。現実の川であるのだから、現実の特性をもう少し、考えるべきではないか。
<山本>粗粒化すれば河道が複列化しやすいとは思わない。神流川のアーマー化した河床状況と平成19年洪水時に大きな礫が動いていない状況から、複列化に向かい、川幅も広がるというのは理解できない。
<知花>粗粒化は、アーマー化する粗粒化のことと、須賀先生のいう粗いものも動くなかで、砂利の相対的に粒径が大きいことの二つの意味があるのではないか。
<泉>この見解の相違はおいておき、流量が減って必要川幅が小さくなっているのに放置しているため、樹林化が進んでいる。基本的には、土砂を動かすためには川幅を狭めてやらないと動かないという考えか。
<山本>川はなりたがっているように放っておいたらと思う。無理に川幅を拡げても戻ってしまう。川をつくるときの時間スパンは今日の話では10年ぐらいだろうか。10年では短く、30年くらいでみないといけないのでは。30年後の川の状態が望まれないのであればお金をかけてでもダムを壊すなりして川を変えることを考えなくてはいけなくなり、結局、川にどれだけお金をかけていい川をつくるかということになる。いい川を作るといっても財政的に厳しい中、そのあたりも考えなくてはいけない。
<島谷>神流川の考え方は、流量が半分に減ったのだからそれにあった河幅にするということ。以前の川の特性のうち治水上じゃまになっているものは、じゃまにならないようにしていく考え方は正しいと思う。それがどちらの方向に向かっていくかということには議論があると思うが。昔の川のタイプから次の平衝の川のタイプに変えるのに当たって環境面や他の面で影響が現われるのか、どう変わるのか見通しが欲しい。例えば、自然環境でいえば何が絶滅して、しかし、それは仕方がないなど。川は大きな洪水のときのキャパシティは必要だが、普段のキャパシティは上流にダムを作れば必ず川は縮小して流下能力を小さくする性質のものなので、方向性としてはノーマルな考え方だと思う。
<泉>渡良瀬川の例の少し掘削したおかげで攪乱が起こるのは良いアイディアだと思うのだが・・・。
<清水>河道の掘り方を注意しないといけない。掘り方は出張所長のような現場の人が一番よく知っている。洪水時に砂州の上に流れるところがあり、削り代の確保された砂州でちょっと切ってやって、川が流れたがっているところに流す。セグメント1、1/100勾配の河道を掘るのは怖い。
○発表 大沼克弘:太田川放水路を事例とした河口干潟の設計・管理方法の枠組みに関する研究
・干潟の造成後、中小規模出水を経て変化のパターンと干潟の形成機構がみえてきた。1/10規模の出水で干潟が大きく変化する。出水直後に干潟がかなり変わり、造成勾配の折れ点付近で砂が堆積している。
・2週間後には砂の帯が出来はじめる。その後、干潟上に帯状微高地であるバームが形成される。後背地はシルト分が多く堆積している。勾配の折れ点あたりで多く堆積。
・表層の底質の違いにより、カニが住分けている。塩生植物が生えるにはもう少し時間が必要。
・干潟地形の骨格は洪水で規定されている。特に、中規模出水。干潟の構造は、底質、地被、生物が相互に関係を持つ中で形成されてくる。
・干潟の設計項目は、洪水等によるインパクトを考えた上で行うこと。
<島谷>河口域の掘削が進む中、これまで真っ平に掘っても河岸域が不可逆的に戻らずslopeが形成されないところが結構ある。河岸の法面をどうするのかは手探りの状態。説明に満潮面の記述がないと分かりにくい。基本的には、材料で底生生物は決まってくる。また、平面形状も重要で曲がっている折れ点のところで生物密度が高くなる。これは、流れが乱れるところで材料などが多様になり生物多様性が高まるというのが河口の特徴である。あとは平面的なことをもう少し入れていただくと、いよいよ設計に入れるかなあと感じ、非常に参考になる。
<大沼>朔望平均満潮位、朔望平均干潮位の説明をし、塩生植物群落の定着をねらった平坦区1の平坦部の高さであるT.P.1.3mは年間85%程度の時間干出する高さであることを説明。
<山本>河口干潟は三角州で流入河川が分派するところにあり、そこの給砂条件が重要である。三角州にある分派箇所の給砂条件が一つずつ変わっているはずで重要となる。干潟の議論に当たり、入ってくる土砂がどうなのかということが一つの前提条件となりませんか。
<藤田>給砂条件は非常に大事であり、流入量は制御されているので、旧川、派川についても調査のターゲットに入れて比較対象としてみていこうと考えている。放水路、旧川へ分派するところの水、土砂の量、塩水挙動について、研究会のWGで見ており、極端に制御されたものと、そうでないところの対比をしていく、また、川幅が違うので、波の作用も変わってくると思う。いろんな因子をみて設計に活かす点、そもそも成り立ちを把握する意味でも重要である。
<泉>時間が来ているが、もう少し全体的な討論をできればと思う。OSPからこの発表まで上流から河口までの設計で、どなたかご意見はないか?
<福岡>全般的には、川幅、河床材料についてもっとやらなければいけない。渡良瀬川の掘削の事例は、掘削により何を得たいのか、そこから何を引き出すのか。川幅、材料、流量、勾配など全体として、従来からの考え方を含め、どう考えればよいか議論していき、現場を介して話題としていく必要がある。実験室の現象を中心に川をみてきた時代があり、その時に出来上がった論理があってこれまで役立ってきたが、次第に実河川のデーダが蓄積されてきて、何が言えるか。水面形データに基づく分析、河床変動など現地データの蓄積から方向が出てくるのではないかと思う。
<須賀>設計論なら土木計画の考え方を導入すべき。思考過程を今までとは変えていかなければいけない。例えば、礫河原の再生といった目標がはっきりしていて、戦後の草も生えていないような河原にしたいというのであれば、その成立条件をきちんと明らかにする必要があり、その検討が一番大事である。発表では、公式を使ってやることが良いように言われているが、福岡先生の式の前提条件は堤防幅で、計画流量ですかね?そういう条件のものを使って良いのか。福岡先生の式は粒径に無関係だが、実際の川は代表粒径では表現しきれないくらい川の流れは複雑。粒径の効果、影響を十分考慮した考え方でなければ成立条件を明らかに出来ない。
<山本>川は中々人間がコントロールできない。設計を考えるのであれば、対象とする川の変遷をしっかり押させるのが第一。道具的概念や手段といったものが適用可能か見るためには必要。例えば、安定河道の概念や、大礫堆であったり。井上さんの発表内容をもう一度見てみる。表になっているだけで、どれがいいのかわからない。以前に河口部の形状を決めるのにレジーム論などいろいろ検討したが、設計論で倍半分の精度の式では使えない。そもそも河道スケールを相似則で評価するのはおかしいのではないか。河岸の形成等に相似則が成り立つのであろうか?福岡先生の式は設計論に使えない。やってみたら、この線の上にのりましたというだけである。
<泉>設計のためには安定した川幅、断面などを推定する理論が必要である。それをもう少し精度良くするということには合意いただけるのではないか。
<藤田>河川シンポはこういう議論をどんどんやるための場ではあるが、堂々巡りの議論はしたくない。どういう議論があり、どこをどう治すべきかと言ったことやどこにどんな議論があったかをしっかりと残したい。
現場的にいうと、設計流量が一つではダメなのかな、計画流量と河道満杯流量など、また、流量も連続的に扱うことが必要なのか、そのあたりが難しくなってきた。
<知花>OPSの研究ベースのものと、OSの実例のものと、少し視点が違うのかなという気がした。強引にまとめようとすると、平均的にどうかという議論と変動(振れ幅)の視点がある。前半はどういう砂州の生息場がよいという理論はあるが、振れ幅がある。そこが定まってこないと、現場の制約の中で断面、護岸の適用はできない。福岡先生の式は一般的なあるひとつの基準であり、使いやすく、そこに山本先生や須賀先生のいう変動や個性をどう盛り込んでいくのかが課題と考えられる。
以上