21世紀を迎えた今日,社会のあらゆる分野においてパラダイムの転換が求められている.土木学会ではこれに対応すべく,学会の活動目標と行動計画(アクションプラン)をJSCE2000として策定し発行した.このアクションプランは刻々と変化する社会情勢に応じて5年ごとに見直され学会活動の中期的な目標・行動計画が示されている.2008年5月には,JSCE2010[社会と世界に活かそう土木学会の技術力]が発行された.この中で,"環境維持と持続可能な社会の実現","建設産業の国際協働の重要性","技術力の確保向上と土木界の社会的評価の向上"が,土木技術者の解決すべき重点課題として挙げられている.さらに,これらの課題を解決するためには,従来にも増して多様化する社会に貢献できる人材育成の重要性が指摘されている.また,海外の技術者教育に目を向けると,ABETやASCE等では技術者のもつべき資質のアウトカムを示した上でその質保証を求める傾向がある.さらに,近年の人材育成の重要性は土木界のみならず,教育基本法の改正や内閣府長期戦略指針"イノベーション25-未来をつくる,無限の可能性への挑戦-"などでも謳われ,わが国の最重要課題の一つであると言える.
これまで,土木学会では従来の学術研究と社会基盤整備の発展に関わる機能に加え,教育部門の機能を強化するため,教育企画・人材育成委員会を設けて,課題解決のための活動を積極的に実施してきている.その成果は委員会報告とともに,全国大会共通セッションの教育一般などで発信してきている.
同委員会で検討している「人材育成」とは,前述した土木技術者の役割を踏まえた上で社会から求められる,または必要な技術者育成である.したがって,従来の「技術を身につける技術者教育」から「多様な社会を洞察し,自ら課題を解決していく技術者育成」を重視した教育への転換が強く求められている.換言すると,技術者教育が教育本来の目的である新たな社会を創造し構築していく人材を育むことに回帰したとも解釈できる.
土木学会教育論文集はこのような時代背景と土木学会の役割を熟慮し議論した上で刊行するに至った論文集である.本論文集では技術教育法の改善のみならず,新たな教育・人材育成の狙い,教育・人材育成の手法,教育・人材育成の実践など,土木をキーワードとした教育と人材育成の取り組みに関する研究や報告を対象としている.また,高等専門学校,大学,ならびに大学院の高等教育はもとより,初中等教育,高校教育,生涯学習,継続教育,男女共同参画教育,産業界教育など,土木をとりまく社会での人材育成活動も範疇として,その新たな取り組みを広く読者に反映することを目的としている.さらに,本論文集は教育機関に携わる方々はもちろんのこと,広く土木界で人材育成にかかわる方々にも積極的に講読や投稿を頂き,土木界ならびに社会における人材育成のさらなる活性と進展を目指すものである.