原子力土木委員会・地盤安定性評価小委員会では,地盤の安定性評価に関する技術を体系化することを目的に 2018年度から2020年度の3か年活動してきました。
今般,その結果を技術資料「原子力発電所の基礎地盤及び周辺斜面の安定性評価技術<技術資料>(2020年度版)」としてまとめました。
その技術資料本編のドラフト版を公開し,意見公募を令和3年4月5日~令和3年4月30日の期間で実施しました(リンク)。2名の方から意見をいただきました。どうもありがとうございました。
原子力土木委員会・地盤安定性評価小委員会では,いただいた意見についてその内容と対応方針を検討し,その結果を以下に公開します。
いただいたご意見に関する考え方は,本冊の修正に反映されます。
ご意見の概要 | 考え方 | |
No.1 |
・技術資料を拝読させていただきました。非常に高度な検討が行われていると感じました。ただ、示されている方法論の多くは、高度に解析的であり、個別に地盤の詳細調査が必要なもので、現実的には「事後評価」に使う場合が大半ではないでしょうか。夜ノ森線No.27 を倒壊させた盛土問題などのように、原子力施設においては「事前評価」と「予防対策」が重要です。その方法論の記載があまり無かったように思います。 夜ノ森線No.27 に関して、技術資料には下記のように2か所で触れられていました。この盛土崩壊を、福島第一原発事故の重要な誘因の一つとして考えられていることを理解しましたので、意見を述べさせていただきます。 巻頭言 「例えば発電所の供給送電線の一つである夜ノ森送電線の鉄塔が崩落した土砂によって倒されたこと」 p.226 「2011 年東北地方太平洋沖地震による造成斜面の崩壊は、送電鉄塔の倒壊による外部電源の喪失をもたらすとともに、それを誘因とした福島第一原子力発電所の事故を引き起こした」 |
・ご指摘の通り,原子力施設においては「事前評価」と「予防対策」が重要と認識しています.そのために個別に地盤の詳細な調査を実施し,事前評価,予防対策に利用することを旨としています. |
No.2 |
・本報告では多くの解析手法を集められており、今後、原子力施設における斜面のリスクを評価する上で指針とされると思います。そこで、この際、簡単ですが意見を述べておきたいと思います。 巻頭言でも触れられている様に、東北地方太平洋沖地震では、福島第一原発敷地内の谷埋め盛土の地すべりにより、夜の森線No.27鉄塔が倒壊し、5号機6号機への電力供給が途絶えました。非常用電源によって何とか持ちこたえましたが、この事例は、地すべりによって原子力発電所の機能が損なわれた例として極めて重要です。そこで、この現象を基に、以下の3点について意見を述べます。 1.この地すべりに関しては、東京電力によって調査が行われ、報告書も公開されています(『福島第一原子力発電所内外の電気設備の被害状況等に係る記録 に関する報告を踏まえた対応について(指示)に対する 追加報告について (鉄塔倒壊に関わる福島第一原子力発電所内の盛土の崩壊原因)』平成24年2月17日)。しかし、この報告書によれば、限界平衡法と動的FEMによる安定解析では、結局、崩壊を説明できませんでした(安全率が1を上回る)。そのため、東京電力は、強度を低減させて崩壊現象の説明を試みていますが、曖昧さが残る結果になりました。本来であれば、この事例こそ、貴委員会で取り上げていただき、最新の高度な解析を行えば説明可能であることをお示しいただければ良かったと思います。 2.東京電力の報告書によると、この谷埋め盛土の締固めは良好で、地下水位もそれほど高くありませんでした。つまり、高品質な盛土であったと評価できます。それにも関わらず崩壊したのは、地震動によって大きな過剰間隙水圧が発生したからだと推定されます。確かに、地震時の過剰間隙水圧の推定は、それ自体が難しい問題です。しかし、そうである以上、あらかじめ十分高い過剰間隙水圧を想定した斜面安定度評価が必要であると思います。今回の報告書では、こうした視点も考慮いただければと思います。 3.個人的な経験では、谷埋め盛土の地すべりの場合、三次元の形状効果が、重要です。その本質は、側部抵抗の発現と底面付近での過剰間隙水圧の発生(つまり、抵抗の減少)です。東京電力による安定解析がうまく行かなった原因は、解析が二次元であったため、これらの効果を表現できなかったためだと考えています。恐らく、底面付近の過剰間隙水圧を考慮できる三次元安定解析を行えば、強度を無理にいじらなくても崩壊を上手く説明できたはずです。今回の報告書でも、こうした三次元効果に言及していただければと思います。 |
・1) 3章に以下の内容を追記します. 「なお,本章では岩盤を念頭に原子力発電所重要施設の基礎地盤および周辺斜面を対象としたが,発電所敷地内に想定される埋立地盤や造成盛土など様々な地盤条件についても,3次元形状や過剰間隙水圧上昇の影響も含めた評価手法を構築していく必要がある.」 ・2) 1章に以下の文書を追記します。 「なお,本技術資料では原子力発電所重要施設の基礎地盤および周辺斜面を対象としているものの,リスク管理の観点からは,外部電源喪失の一因となった造成斜面崩壊のように、これまで対象としていなかった事象の評価も課題の一つとなる.」 |