土木学会 東日本大震災特別委員会では、被災地の復興と安全な国土形成のために課題ごとに特定テーマ委員会を設置し、専門家による議論をもとに情報提供を行っています。
津波特定テーマ委員会(委員長:今村文彦 東北大学教授)では、以下の3つのWGにて課題に取り組んでいます。
WG1:今回の津波の特性
WG2:海岸施設の復旧と設計方針
WG3:復興に向けて配慮すべき事項
これまでに得られた情報に基づき、1000年に1度程度の頻度で発生する巨大津波を含めた今後の津波対策について、海岸構造物による防護と津波に強いまちづくりの方針に関する提案や今後の検討方向などを整理しましたので、記者会見にて報告させていただきました。
1. 今回の津波の特性と位置づけ(WG1)
1-1 今回の津波は場所によっては貞観津波(869年)クラスかそれ以上と考えられる.(合同調査グループ等による痕跡調査の分析から.)
1-2 貞観津波クラスの巨大津波の発生頻度は500年から1000年に一度と考えられる(津波堆積物の調査研究のレビューから.)
2. 海岸保全施設の復旧と設計方針(WG2)
2-1 すべての人命を守ることが前提とし、主に海岸保全施設で対応する津波のレベルと海岸保全施設のみならずまちづくりと避難計画をあわせて対応する津波のレベルの二つを設定する.前者は海岸保全施設の設計で用いる津波の高さのことで,数十年から百数十年に1度の津波を対象とし,人命及び資産を守るレベル(以下,津波レベル1(仮称))である.後者は津波レベル1をはるかに上回り,構造物対策の適用限界を超過する津波に対して,人命を守るために必要な最大限の措置を行うレベル(以下,津波レベル2(仮称))である.ただし,地震発生後に来襲する津波に対して避難の要否を予測することは現時点の技術では困難なので,地震発生後は必ず避難しなければならない.
2-2 海岸保全施設を一定程度超えて越流した場合にも,破壊・倒壊しにくい施設設計を検討する.
2-3 地震時に陸域の広い範囲で沈下が生じ,その直後に津波が来襲することも設計条件に含める必要がある.(今回のように震源が近い場合には,陸域が沈降域に含まれる.さらに,地盤条件によっては液状化を考慮すべき地域もある.)
2-4 海浜が変形することも注意深く監視する必要がある.(地殻変動による沈降域での地盤の隆起,津波来襲時の土砂移動による変形,津波後の波浪により2~3年かけて生じる地形変形等が対象となる.)
2-5 今年以後の台風期にも備える段階的復旧が必要である.
3. 復興に向けて配慮すべき事項(WG3)
3-1 地域の津波防災計画で対象とする津波レベル2の設定法:津波レベル2の津波の高さを精度良く確定することは現時点の科学・技術では限界がある.そのため,歴史津波を含めた痕跡を再整理し,その分布の包絡線として津波高さを設定する方法が考えられる.しかし,この設定法には不確実性があるため,最新の地球科学等からの知見を踏まえつつ,津波数値計算による予測を併用して,精度向上を図るとともに随時見直すことが必要である.
3-2 地域の津波対策は,海岸保全施設に加え,盛土構造の活用,地域計画,土地利用規制等による多重的な防護機能を兼ね備える必要がある.津波の来襲時に,まずは人命を守ることを目指して,避難計画を含めた被害軽減を図り,復旧・復興を行いやすい津波に強いまちづくりを目指して,対策を進めることが重要である.
3-3 住民の命を守るための避難計画や津波情報の伝達システム等の対策は,津波レベル2を基本として再構築する必要がある.さらに,地域のハザードマップ(防災地図)等には津波レベル2を具体的に反映させることが重要で,そのためには地域に根ざした津波防災専門家の養成が必要である.
3-4 避難計画の策定では,避難場所の選定を地域の特性に応じて適切に行う必要がある.特に避難施設の設定では,津波レベル2の津波に対しても浸水せず極力津波来襲時に孤立しない適切な場所を選定する等,地域計画、土地利用の面からも対策を講じることが重要である.
3-5 避難時の情報提供においては,津波予警報や避難勧告・指示に加え,津波の来襲状況を正確に把握するため,GPS波浪計の設置及び水圧式波高計等の壊れにくい観測設備の開発を検討する.
3-6 これらハードとソフトが一体となった対策を100年以上の長期にわたって持続できるスキームを検討する.(高所移転しても数十年経過すると低平地に戻ってしまう事例が多い.明治・昭和の三陸津波における高所移転問題の教訓を整理し,現代に置き換えて考えることが重要である.)
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