鋼構造物を長寿命化するためには,その防食性能を補修により回復・維持することで,構造上重要な部位の耐荷力を確保することが重要になる.防食性能の回復方法は,長寿命化や維持管理費の縮減の観点から,対象部位の腐食環境,防食性能低下の程度やその範囲,防食方法,構造物の管理水準,性能回復後の期待耐用年数などを考慮して,適切に選定する必要がある.今後,鋼構造物を合理的に維持管理し,さらなる長寿命化を実現していくためには,腐食環境と各防食方法の性能低下の関係や,補修後の防食性能の回復効果と耐久性等について定量的に明らかにする必要がある.
塗替え塗装による防食性能の回復ついては,これまで様々な検討がなされ,経済的に有利であれば,全面塗替えではなく,部分塗替えを選択することが合理的であるとされている.しかし,素地調整や塗り重ね塗装部の耐久性等に関する知見や,部分塗替えの適用事例が少ないことなどもあり,全面塗替えに比して,部分塗替えが有利になる条件が明確化されていない.また,近年,無塗装耐候性鋼橋に著しい腐食損傷が生じた場合や,亜鉛めっきや溶射などの金属被覆が劣化した場合など,各防食方法の性能回復時に塗装が適用される事例が増加している.さらに,構造物の腐食環境は,部位レベルで著しく異なることがあるため,構造物全体の防食性能を同様な仕様で回復するのではなく,部位レベルの腐食環境に応じて防食性能を回復することが経済的になる場合もある.
鋼構造物を合理的に長寿命化していくためには,前述した防食性能の回復に関する課題を解決していく必要がある.そこで,本小委員会では,防食性能の回復に焦点をあて,その中でも腐食環境の改善方法,素地調整,部分塗替え,金属被覆防食の補修,耐候性鋼橋の塗装による補修,部位レベルの腐食環境評価と適切な防食方法の選定,腐食部材に対する防食方法の新技術などをキーワードにして,既往の検討結果に基づき腐食環境と各防食方法の性能低下との関係や,各補修による防食性能の回復効果と耐久性のデータベース化,各防食方法の性能回復時の施工における留意点のまとめ,防食性能の回復に関する最新の知見や技術の情報収集などを行い,鋼構造物の防食補修マニュアル案を作成することを目指す.