小委員会の報告書を公開します。
ご利用いただくにあたり注意していただきたい事項として、報告書の第2編第1章の内容を以下に示します。
今回、示方書案を提示するに当たり、留意した事項を以下に示す.
(1) 部分係数と特性値(基準耐荷力曲線)との関係について述べる。
部材係数と耐荷力曲線はペアで考えないといけない。基準耐荷力曲線を定めて、目標信頼性指標が所定の数値となるように部分係数を定めることになる。これを明確に示すためには、これまでの示方書類の記述のように、安全率を示してから許容値の算出式を改めて示す、というものではなく、同じ条文の中で部分係数と基準耐荷力曲線式を示す、という表現方法が必要と判断した。
これによって、基準耐荷力曲線を変えれば部分係数も変える必要があること、あるいは、別の部分係数だけを適用することはできないこと、を示すことができていると考える。
(2) 平均値なのか、下限値なのかを、明確にしておく必要がある。
「鋼構造物の終局強度と設計」では、「(途中略)、部材の真の強度式として信頼できるのは平均値であり、将来の改訂時に強度の平均値を与える式が分かっていないと不都合が生じる可能性がある(以下略)」と記されている。
また、平均値で整理した方が、統計処理的な解釈の違いが生じにくい、とも考えられるため、本案では平均値を基準としている。
(3) 従来の基準耐荷力曲線を用いていることに対する留意点
従来の基準耐荷力曲線は、塑性化を考慮しない弾性設計を基本としていること、および式の簡略化・弾性設計ということを明確に示すために、座屈パラメータの小さい領域では=1で頭打ちにしている。このために厳密には、部材強度の低減を受ける範囲と材料強度のばらつきだけを考慮する範囲に分けて、部分係数を設定する必要があり、「鋼構造物の終局強度と設計」「鋼構造物設計指針」では、これを考慮した形で部分係数を設定している。
既刊の鋼・合成構造標準示方書では、上記の考慮がなされておらず、すべての領域で材料係数・部材係数を乗じて抵抗強度を算出している。今回の案の提示においても、範囲を分けての部分係数の設定は行っていない。
今後は、
・「材料係数だけ」「材料係数×部材係数」の範囲を区分して、従来の耐荷力曲線式を利用する。
・塑性領域を考慮した基準耐荷力曲線の設定、それに対応した部分係数を設定する。
の両者を比較して、基準耐荷力曲線の持つ意味合い、部分係数の役割を、理解しやすい形態とすることが望ましいと考える。
(4) 基準とする数値の違い
部分係数を求める際に、既刊の鋼・合成構造標準示方書では、鋼構造物設計指針の逆数をとっているため、科研での推奨値(計算結果を丸めた数値)を基に算出している。本報告書では、丸め誤差を取り除くため科研の計算結果をそのまま用いている。また、鋼構造物設計指針では材料係数(=試験法係数)として0.92を用いているが、本報告書ではSGSTフォーマットによる算出結果0.9412を用いている。このため、既刊の数値と異なっている。
例えば、柱(グループ1)では
既刊 0.88/0.92=0.9565 → 0.957 より、 1/0.957=1.044 → 1.04
本報告書 1/(0.8755/0.9412)=1.075 → 1.08
(5) 有効数字は3桁(小数第二位)で
部分係数を0.05単位で丸めた場合には、SM490級では最大10N/mm2生じるため大きいと感じられる。そこで0.01単位で数値を丸めて表示している。
(6) 信頼性指標β=3.0として算出している
SGSTフォーマットでは、信頼性指標βを3あるいは4として各種の試算を実施している。これに対して、現行の道路橋示方書の信頼性指標は5~6程度とかなり高いという情報を得ている。本案では抵抗側だけを議論して部分係数を算出しているため、鋼構造物の安全性を照査する場合には、全体の安全性の程度を議論することを忘れてはいけない。
(7) 章構成について
既刊の部分係数を提示する並びは、道路橋示方書にならって整理されていると思われるが、一見してそれを理解することは難しいと言える。耐荷力としての整理であれば、板要素、部材、断面の順とすると明確となるが、示方書の利用者にとっては、あまり使われない板要素が始めに示されることは好まれないと思われる。
本案では、あえて既刊の並びと変えることで、比較してもらうことを意図とした。
以上、よろしくお願い申し上げます。