開催趣旨:
20世紀後半に、米国で「ヒトゲノム計画」が開始された時に、科学技術文明への懐疑を背景に、新しい科学技術がもたらす利益だけでなく、それによるリスクも同時に検討するプログラムが考えられた。その考え方は、倫理・法・社会的課題(ELSI: Ethical, Legal and Social Issues)と呼ばれて世界中に広まり、様々な新技術を研究開発し、社会に導入する場合には、ELSIを検討する事が必須とされるようになっている。しかしながら、AI(人工知能)を例に考えれば分かるように、技術の社会的な影響を、それが成立する前に予測することは簡単なことではなく、しかも、一旦、普及したサービス・システム等をコントロールすることは非常に困難である。また、ELSIは、その性質上、技術開発プロセスに、条件によってはブレーキをかける可能性を持つ。そのため、ELSIを実践するためには、技術開発を推進するコミュニティだけでなく、倫理・哲学などの人文社会系のコミュニティや、政策プロセスに責任を持つコミュニティの協働が上手く機能する事が最も大切な条件となる。
本シンポジウムにおいては、上記の背景を元に、ELSIの理念と、それを実践するための課題、現場の技術者への技術倫理教育の方法等を議論し、新しい時代の技術者が身につける教養としてのELSIを考える。