論説委員 村田 和夫 株式会社建設技術研究所
気候変動や人口減少社会の到来など、我々を取り巻く自然及び社会環境は激しく変化している。このような背景のもと、持続可能な社会の実現に向けて、将来予測を踏まえた様々な検討が行われている。ここでは、持続可能な社会を構築するための治水計画のイノベーションについて考える。
(2014年10月版)
第89回論説(1) 【シリーズ】「50年後の国土への戦略」治水計画のイノベーション
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第89回論説(1) 【シリーズ】「50年後の国土への戦略」治水計画のイノベーション | 228.11 KB |
コメント
Re: 第89回論説(1) 【シリーズ】「50年後の国土への戦略」治水計画のイノベーション
投稿者:馬場仁志 投稿日時:日, 2014-11-30 16:38村田論説委員がご提言された治水計画のイノベーションに共感を覚えました。「地域ごとに優先度を評価したうえで戦略を検討し、複数の安全性目標をもつ多様なレベルの防災力向上策と地域活性化策を組み合わせる」というご主張かと理解いたしました。
全総の理念に沿った一律的な安全度目標の設定による治水政策の推進は、戦後のいち早い国土の復興と開発に一定の役割を果たしたと思います。いまだ目標に届かない地域がある事は確かですが、今日の新たな社会構造と価値観の変化に対応した治水計画論が待たれているのは確かだと、私も感じております。
2002年の欧州大洪に際して土木学会の調査団に参加させていただいた折、多くの都市国家の歴史を経て今にいたる欧州の治水計画は地域ごとに異なる安全性目標と戦略を有していることを、私は恥ずかしながら調査時に初めて知りました。例えばウィーンを流れるドナウ川は、毎秒1万4千トンの洪水を安全に流す整備がされており、上下流の他地域に比べて格段に安全性が高くなっています。20世紀の初めころから、世界中から信頼される国際都市建設を目指して、安全性を重視した治水戦略を描いた技術者の誇りが感じられます。
同時に、明治期にオランダから輸入した我が国の治水計画論の基軸となっている「生起確率」という技術的インデックスについても、ドイツやオーストリアでは計画の基軸として用いてはいないことを当時初めて知り(確率は相対評価値として用いることもある)、計画の目標として確率値を定めることの不都合について色々と考えさせられたものです。
その後、2011年9月の日本学術会議が国土交通省に回答した「河川流出モデル・基本高水の検証に関する学術的な評価」にて、付帯意見の中で「河川計画において根拠としてきた定常確率過程の前提を再検討する必要がある」と述べられています。また、「様々な対応策のオプションを用意した上で、新たな河川計画、管理のあり方を検討することを要請する」とも述べられています。これは、気候変動による降雨特性の変化を主背景とした御意見ですが、東日本大震災を経験した現在、なお一層リスク対応論の新たなパラダイム形成に向けて重要な示唆を与えていると思います。
土木学会のこの方向性における一層のご活躍を期待いたします。