コンクリート構造物の鋼材腐食に関しては,主に塩害および中性化という観点で整理されることが多く,両劣化機構に対しては他の劣化機構と比較して系統だった研究が実施されてきた.コンクリート委員会においてもこれまで,腐食防食小委員会(305)(宮川豊章委員長,1995〜2000年)とコンクリート中の鋼材の腐食性評価と防食技術研究小委員会(338)(武若耕司委員長,2007年〜2012年)が第3種委員会として設置され,多数の委員の参画により精力的な調査研究活動が実施された.また近年では,示方書においては,塩分の拡散係数に対する経時変化の考慮,鋼材腐食に対する水掛かりの影響の明示化など,これら劣化機構に関する取り扱いが大きく変わり,また,劣化の生じた構造物の評価についてはより具体的な記述が加わるなどしている.特に水の影響は塩分の移動や中性化の進行のみならず,鋼材の腐食にも結び付けるべきものであり,現在の最新の研究成果を取りまとめて理解を深めることが必要不可欠である.
一方,カーボンニュートラルを目指した新たな材料の使用拡大,様々な高性能/高機能な補修材料/工法の登場に加え,働き方改革のための施工工程の変化(例えば打継ぎ目処理など)も考慮する必要があり,従来型のコンクリート,施工を前提にして構築した設計,施工,維持管理の体系から一歩踏み出すための検討を,鋼材腐食の基礎理論を踏まえつつ実施することが必要であると考える.
338委員会の活動が終了してから10年以上が経過した現在の状況を鑑み,「コンクリート中の鋼材腐食に関する設計と維持管理技術研究小委員会」の設立を提案する.本研究委員会は,次回および次々回の示方書改訂に資することも目指し,コンクリート中の鋼材腐食に関して設計,施工,維持管理の全ての観点を踏まえて幅広く研究を行うことを目指すものである.
以下の4つのWG体制で研究活動を行う.
塩化物イオンの浸入や中性化によるpHの低下は鋼材腐食の起点とはなるが,その後の腐食の進行には水と酸素の影響の方が大きいことや,特に乾湿繰返しの場合に腐食の進行が速くなることが分かってきている.したがって,水の供給あるいは酸素の供給のいずれかを遮断することができれば,鋼材腐食の進行を抑制することができると考えられる.
一方で,従来は塩化物イオンの浸透予測や中性化の進行予測などが耐久性の照査として用いられており,高炉スラグやフライアッシュを大量に使用したコンクリートやジオポリマー,CO2吸収型コンクリートなどでは,中性化の照査において実際よりも腐食リスクが高いと評価されてしまう可能性がある.
また,ポストテンション方式のPC構造物においてグラウト未充填部でPC鋼材が腐食する事例も多数報告されているが,グラウト未充填部であっても腐食が軽微な場合も多く,PC鋼材の腐食リスクを評価する上で水の供給経路を把握することが重要となるが,RC構造物とは水分の経路等が大きく異なるため,情報を整理する必要がある.
以上の課題を解決するために,劣化メカニズムWGでは3つのSWGに分けて議論する.
【SWG1】耐久性の照査SWG 腐食のメカニズムに基づいて,耐久性の照査方法について議論する.環境(特に水)の影響を取り込んだ塩分浸透の予測式,および電気化学的理論に立脚して鋼材腐食を理解した上で腐食の進行の予測式を提案することを目的とする.
【SWG2】新材料SWG SWG1と連携しながら,今後新材料を積極的に展開,利用していく上で必要な情報(中性化深さ,腐食発生限界塩化物イオン量など)や材料の耐久性評価方法(透水係数,透気係数,拡散係数,電気抵抗,自然電位など)などを整理し,かぶりの設計方法を提案することを目的とする.
【SWG3】プレストレストコンクリートSWG PC鋼材の腐食リスクを評価する上で重要な水の供給経路(漏水,結露,水膜など)について整理し,腐食リスクの評価方法を提案することを目的とする.また,水素脆化のリスクの高い鋼材は維持管理上の優先順位を上げる必要がある可能性があり,水素脆化のリスクの高い鋼材(強度および鋼種)を選定する .グラウト未充填部で不働態被膜が形成することは考えにくいので,不働態被膜の孔食が原因となる応力腐食割れについては議論しない.
調査,現状把握,性能評価を一体的に考えることで診断の合理化に寄与することを目指す.調査においては,現状,非破壊試験が点検・調査のスクリーニングとしてしか利用されていない現状を改善することを目指す.非破壊試験で得られる指標の種類と数値を,材料の劣化状況または構造物の力学性能に関係する指標の種類と数値に関連付けることで,現状を定量的に把握できるようなフレームワークを提案する.現状を把握したあとに,さらに将来の劣化状態を予測し,力学性能に関する劣化曲線を評価する方法を提案する.
WG活動としては,まず,劣化構造物への非破壊試験の適用事例の文献調査を行い,非破壊試験の種類と得られるデータの種類,数値の精度等を整理する.また,これらの非破壊試験の室内実験の文献調査を行い,材料劣化とどのような相関があるのかを整理・議論する.材料劣化を考慮した構造性能の評価方法に関する文献調査も行い,非破壊試験から構造性能評価までのフローを作成する.1,2個の実際の構造物・部材を対象として必要なデータを収集し,試行的に評価を行ってみて,どの程度の合理化が達成できそうであるのかや,今後の課題を整理する.
以下に示す3つのSWGに分かれて作業を行いたい.338委員会の対策WGの成果を参照しつつ,最新の知見を加えて実用性の高い成果を挙げたい.
【SWG1】材料・工法の性能評価SWG 従来型の表面被覆・表面含浸工法,断面修復工法を中心に,新工法も含めて,様々な補修材料や工法について,長期的な性能データを収集し,実態に基づく新しい補修設計の考え方の提示を目標とする.
【SWG2】再劣化SWG 実構造物に対して種々の対策実施後の再劣化事例を収集・整理し,その基本メカニズムを解明するとともに,今後再劣化を起こさないための留意点をまとめる.
【SWG3】工法選定SWG 338委員会で提案された工法選定システムについて,設定されていた仮定条件や劣化進行モデル等について,最新の知見を踏まえて見直し,新しいシステムの提案を目標とする.
データベース構築・利活用WG
このWGは,他WGと密に連携しながら活動する.鋼材腐食がもたらす構造物の劣化メカニズムの解明,劣化した構造物の評価方法の確立,対策の検討および試験方法の提案には,既存の成果を可能な限り収集し,内容を解釈したうえで,実務に活用可能な知識や数理モデルとして昇華させる必要がある.その作業は一般に,これまで検討すべき内容に関する専門領域に精通した各委員の専門知識に基づき,議論を重ねる等して行われる.この一方で,近年では,カーボンニュートラルを目指した新たな材料の使用拡大,様々な高性能/高機能な補修材料/工法の登場に加え,働き方改革のための施工工程の変化(例えば打継ぎ目処理など)も考慮する必要があり,従来型のコンクリート材料や,施工を前提にした設計,施工,維持管理の体系の枠外にある知識が必要となる.したがって,従来のような各委員のドメイン知識に基づいた検討には,それらの検証実験を数多く,数年にもわたって長期間に行う必要があり,目まぐるしく変容する社会情勢に対応するためには,新たな方法を模索しなくてはならない.
そこで,データベース構築・利活用WGでは,まず既存の成果の集約と,その成果を基に新しい知識を得るために,表計算ソフトウェア(Execl,MySQL等)の形式により既存の成果を格納するデータベースを構築する.この作業と並行して,データベースを利用した新しい知識の獲得を,従来のドメイン知識の利用や,AIモデルの活用により実施する.さらに,これらの知識を利活用して,過去には試験がなされていない材料や配合によって作製されるコンクリートの諸性能を僅かな実験により事前に予測できる枠組みの可能性について議論する.
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